エンジン全84問中 8問を掲載
問1コモンレール式燃料噴射装置におけるパイロット噴射の主な目的として、最も適切なものはどれか。
- ✔主噴射に先立って少量を噴射し、筒内温度を上昇させて着火遅れ期間を短縮する
- 2噴射ポンプの駆動トルクを軽減し、燃料消費率を向上させる
- 3主噴射の後に噴射し、DPF再生用の排気温度を確保する
- 4実圧縮比を高め、低温始動性を改善する
- 5レール圧を一時的に降下させ、インジェクタの開弁応答を早める
解説:【正解】1「主噴射に先立って少量を噴射し、筒内温度を上昇させて着火遅れ期間を短縮する」
【正解の根拠】主噴射の直前にごく少量を噴射して先行的に燃焼させ、筒内の温度と圧力を高めておく。これにより主噴射の燃料は噴射後すぐに着火でき、着火遅れ期間が短縮される。
【なぜ着火遅れの短縮が重要か】ディーゼルは着火遅れの間に噴射された燃料が筒内に溜まり、着火と同時に一気に燃える(予混合燃焼)。この急激な圧力上昇がディーゼルノック特有の打音であり、同時に局所的な高温がNOxを生む。着火遅れを縮めれば、燃料は噴射されるそばから燃える拡散燃焼が主体となり、圧力上昇が緩やかになる。
【誤答選択肢の検討】「DPF再生用の排気温度を確保する」のはポスト噴射の役割で、噴射時期が膨張行程後半と大きく異なる。「実圧縮比を高める」のは噴射では実現できずバルブタイミングや燃焼室形状の領域。「レール圧を降下させる」は噴射量制御の話であり、パイロット噴射の目的ではない。
【関連して押さえる】コモンレール式の多段噴射はパイロット→プレ→メイン→アフター→ポストと目的別に使い分けられる。アフター噴射はPM低減、ポスト噴射は排気昇温である。噴射段数と時期はECUが運転条件ごとにマップで制御しており、インジェクタ交換時の個体補正値(IQA等)の登録漏れはこの精度を崩す。
問2筒内直接噴射式ガソリンエンジンの成層燃焼に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1圧縮行程後半に噴射し、点火プラグ周辺に燃焼可能な混合気を偏在させる
- ✔排出ガス中のNOxが減少するため、三元触媒のみで浄化が完結する
- 3燃焼室全体の空燃比は理論空燃比よりも大幅に薄い(リーン)状態となる
- 4スロットル開度を大きく保てるためポンピングロスが低減する
- 5ピストン頂面の形状やタンブル流を利用して混合気を成層化する
解説:【正解】2「排出ガス中のNOxが減少するため、三元触媒のみで浄化が完結する」
【正解の根拠】成層リーン燃焼では、燃焼室全体としては極めて薄い混合気になるため排気は常時酸素過多となる。三元触媒はNOxを「還元」する必要があるが、酸素が多い環境では還元反応が進まない。したがって三元触媒だけでは浄化が完結せず、NOx吸蔵還元触媒(NSR)などの追加装置が必要となる。
【成層燃焼の仕組み】圧縮行程の後半に噴射し、ピストン頂面のキャビティ形状やタンブル流を利用して、点火プラグ周辺にだけ着火可能な濃さの混合気を集める。周囲は空気ばかりでも、プラグ周りが燃えれば火炎が伝わる。全体の空燃比は40前後という超希薄になることもある。
【なぜ燃費が良くなるのか】理由は2つある。第一に、スロットルで空気量を絞らずに噴射量で出力を調整できるため、ポンピングロスが大幅に減る。第二に、燃焼室壁面付近が空気の層になるため冷却損失も減る。ディーゼルに近い運転が可能になると考えるとよい。
【NOx吸蔵還元触媒の働き】リーン運転中はNOxを硝酸塩として触媒に吸蔵し、飽和する前に短時間リッチ運転(リッチスパイク)を行って吸蔵したNOxを還元・放出する。この制御が必要なため、燃料に硫黄分が多いと硫黄被毒により吸蔵能力が落ちる。
【現在の位置づけ】排出ガス規制の強化と後処理装置のコスト増から、成層リーン燃焼は限定的となり、現在の直噴の主流は理論空燃比での均質燃焼である。高圧噴射による冷却効果で圧縮比を高められる点が主たる利点となっている。
問3可変バルブタイミング機構により吸気バルブの閉じ時期を大幅に遅角(遅閉じ)させた場合に得られる効果として、最も適切なものはどれか。
- 1実圧縮比が上昇し、低速トルクが大幅に増加する
- 2バルブオーバーラップが消滅し、内部EGRが増加する
- ✔実圧縮比が低下し、ポンピングロスが低減してミラーサイクル的な運転となる
- 4排気行程の吹き返しが増え、掃気効果が向上する
- 5膨張比が低下し、熱効率が向上する
解説:【正解】3「実圧縮比が低下し、ポンピングロスが低減してミラーサイクル的な運転となる」
【正解の根拠】吸気バルブを下死点より大きく遅れて閉じると、いったん吸い込んだ混合気の一部が吸気ポートへ押し戻される。実際に圧縮が始まるのはバルブが閉じてからなので、有効な圧縮行程が短くなり実圧縮比が下がる。一方で膨張行程は幾何形状どおりフルに使えるため、膨張比>圧縮比という関係が生まれる。これがミラーサイクル(アトキンソンサイクル)である。
【なぜ効率が上がるのか】熱効率は膨張比で決まる一方、圧縮比はノッキングによって上限が制約される。両者を分離できれば、ノッキングを避けつつ膨張仕事を長く取り出せる。加えて、同じ空気量を得るのにスロットルを開き気味にできるためポンピングロスも減る。
【誤答選択肢の検討】「実圧縮比が上昇し低速トルクが増加」は逆で、遅閉じは実圧縮比を下げる。「バルブオーバーラップが消滅」はオーバーラップが吸気開弁と排気閉弁の関係で決まる量であり、吸気の閉じ時期とは直接関係しない。「膨張比が低下」も誤りで、膨張比は変わらない。
【関連して押さえる】ミラーサイクルには吸気の早閉じ方式もあり、こちらは吸い込む量そのものを減らす。ハイブリッド車で高圧縮比のミラーサイクルが多用されるのは、低速トルクの不足をモータで補えるためである。
問4可変ノズル式ターボチャージャ(VGターボ)において、低速回転域でノズルベーンの開度を絞る理由として最も適切なものはどれか。
- 1排気の一部をバイパスさせ、タービンの過回転を防止するため
- 2排気背圧を下げてポンピングロスを低減するため
- 3コンプレッサのサージングを積極的に発生させ、応答を高めるため
- ✔タービンへの排気流入面積を縮小して流速を高め、少ない排気量でも過給圧を確保するため
- 5触媒の暖機を促進するため排気温度を下げるため
解説:【正解】4「タービンへの排気流入面積を縮小して流速を高め、少ない排気量でも過給圧を確保するため」
【正解の根拠】低速回転域では排気量が少なく、そのままではタービンを十分に回せない。ノズルベーンの開度を絞って排気の通路を狭めれば、流速が高まってタービンの回転が上がり、低速域から過給圧を確保できる。
【流速を高める理屈】同じ流量でも通路が狭ければ流速は速くなる。ホースの先を指で押さえると水が勢いよく飛ぶのと同じである。タービンは排気の運動エネルギーで回るため、流速が上がれば回転も上がる。
【高速域では開く】排気量が増えれば、絞ったままでは背圧が高くなりすぎる。ポンプ損失が増えて出力が落ち、過給圧も過大になる。そこでベーンを開いて通路を広げ、必要な過給圧に保つ。ウェイストゲートで逃がす方式より、排気エネルギーを無駄にしない。
【何が解決するか】従来のターボは、低速域を重視すれば小径タービンとなり高速で流量が不足し、高速を重視すれば大径となりターボラグが増えるというジレンマがあった。可変ノズルは、1つのタービンで両方の要求に応えられる。
【ディーゼルで多用される理由】ガソリンエンジンは排気温度が高く(900℃超)、可動部の耐熱が難しかった。ディーゼルは排気温度が低いため、早くから実用化された。近年は耐熱材料の進歩でガソリンにも採用が広がっている。
【不具合】カーボンの堆積によるベーンの固着が典型である。低速域の過給不足、あるいは過給圧の制御不能として現れる。アクチュエータの作動確認とデータストリームでの目標値・実測値の比較で切り分ける。
問5ディーゼルエンジンのEGRがNOxを低減する主な理由として、最も適切なものはどれか。
- 1排気中の未燃HCを再燃焼させ、酸素を消費するため
- 2吸入空気量を増やして空燃比をリーン化するため
- 3燃料噴射時期を機械的に遅角させるため
- 4筒内の乱れを強めて燃焼期間を短縮するため
- ✔不活性ガスの混入により混合気の比熱が増大し、かつ酸素濃度が低下して最高燃焼温度が下がるため
解説:【正解】5「不活性ガスの混入により混合気の比熱が増大し、かつ酸素濃度が低下して最高燃焼温度が下がるため」
【正解の根拠】NOxは高温かつ酸素が存在する条件で、空気中の窒素と酸素が反応して生成される(ゼルドビッチ機構)。生成量は温度に対して指数関数的に増えるため、最高燃焼温度を下げることが最も効果的な対策となる。EGRは比熱の大きいCO2とH2Oを吸気に混ぜて混合気の熱容量を増やし、同じ発熱量でも温度上昇を抑える。同時に酸素濃度も下がるため燃焼が緩やかになる。
【誤答選択肢の検討】「未燃HCを再燃焼させる」のは酸化触媒の働き。「吸入空気量を増やしてリーン化」は逆で、EGRは新気の量を減らす方向に働く。「噴射時期を機械的に遅角」は別の手段(噴射時期制御)であり、EGRの作用機序ではない。
【トレードオフを理解する】EGRを増やすほどNOxは減るが、酸素不足により不完全燃焼が進みPMと黒煙が増える。このNOxとPMのトレードオフがディーゼル制御の中心的な課題であり、DPFと尿素SCRという後処理装置の併用によって初めて双方の規制値を満たせる。
【実務での着眼点】EGRクーラの詰まりやEGRバルブの固着は頻出の不具合である。開き固着ではアイドル不調と失火、閉じ固着ではNOx増加とDTCが現れる。カーボン堆積の背景には燃焼状態の悪化があることも多く、清掃だけで終わらせない。
問6ノッキングセンサ(ノックセンサ)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- ✔ノッキングを検出するとECUは点火時期を進角させる
- 2圧電素子(ピエゾ素子)を用いてシリンダブロックの振動を電圧に変換する
- 3ノッキング固有の周波数帯のみを取り出すためのフィルタ処理が行われる
- 4検出ゲートはクランク角に同期した特定期間に限定されることが多い
- 5非共振型(広帯域型)と共振型がある
解説:【正解】1「ノッキングを検出するとECUは点火時期を進角させる」
【正解の根拠】ノッキングを検出したら点火時期は遅角させる。ノッキングは末端ガスが自着火する現象で、点火時期が早いほど圧縮上死点付近の圧力・温度が高くなり発生しやすい。遅角すれば燃焼のピークが上死点より後ろへずれ、末端ガスの自着火条件が緩和される。進角させれば当然ノッキングは激化する。
【制御の実際】ECUはノッキングを検出すると数度単位で遅角し、しばらく発生がなければ少しずつ進角へ戻す。これを繰り返すことで、常にノック限界のわずか手前で運転し、その燃料で得られる最大の効率を引き出している。したがって低質な燃料を使うと恒常的に遅角側に留まり、出力と燃費が低下する。
【センサの構造】圧電素子がシリンダブロックの振動を電圧に変換する。ノッキング固有の周波数(燃焼室径で決まる共振周波数)だけを取り出すフィルタ処理が行われ、さらにクランク角に同期した特定期間のみを検出ゲートとすることで、バルブ着座音などの機械的雑音を排除している。
【実務での着眼点】締付けトルクが規定外だと振動の伝わり方が変わり感度が狂う。配線のシールド不良によるノイズ混入もDTCの原因となる。DTCが「センサ異常」ではなく「ノッキング多発」を示している場合は、燃料の性状、カーボン堆積、過熱など燃焼側の要因を疑う。
問7ガソリンエンジンのシリンダ圧縮圧力を測定したところ、第3気筒のみ規定値を大きく下回った。プラグ孔から少量のエンジンオイルを注入して再測定したところ圧縮圧力が上昇した。考えられる原因として最も適切なものはどれか。
- 1吸気バルブの密着不良
- ✔ピストンリングの摩耗またはシリンダの摩耗
- 3排気バルブの焼損
- 4シリンダヘッドガスケットの抜け
- 5バルブスプリングの折損
解説:【正解】2「ピストンリングの摩耗またはシリンダの摩耗」
【正解の根拠】シリンダにオイルを注入すると、ピストンリングとシリンダ壁のわずかなすき間が一時的に油膜でシールされる。これで圧縮圧力が回復するなら、漏れ経路はリング側またはシリンダ側にあると特定できる。逆にオイルを入れても改善しなければ、漏れは燃焼室上部(バルブの密着不良、ヘッドガスケットの抜け、ヘッドやシリンダの割れ)にあると判断できる。
【この試験の論理】オイルという媒体で「特定の経路だけを塞ぐ」ことにより、複数ある漏れ経路のどれかを切り分けている。故障探求における条件を変えて反応を見る手法の典型例であり、部品を外さずに内部状態を推定できる点で優れている。
【隣接気筒の同時低下という所見】2つの隣り合う気筒が同時に低下していれば、その間のヘッドガスケットの抜けが強く疑われる。単一気筒ならバルブかリング、全気筒が一様に低いならタイミングのずれ(チェーンやベルトの飛び)も候補になる。
【より精密な手法】リークダウンテストでは、圧縮上死点で圧縮空気を送り込み、どこから音が漏れるかで部位を確定できる。スロットル側なら吸気バルブ、テールパイプ側なら排気バルブ、オイルフィラやレベルゲージ孔ならリング/シリンダ、ラジエータから気泡が出ればヘッドガスケットや割れである。
【測定の前提】圧縮圧力は暖機後、全プラグを外し、スロットル全開、規定回転速度でのクランキングという条件を揃えて測る。バッテリが弱いと回転速度が上がらず低めに出る。
問8あるエンジンの正味出力が60kW、燃料消費率が250g/kW·h、燃料の低位発熱量が42,000kJ/kgであるとき、正味熱効率として最も近い値はどれか。
- 1約24%
- 2約29%
- ✔約34%
- 4約39%
- 5約44%
解説:【正解】3「約34%」
【正解の根拠】1kW·hを得るのに250g=0.250kgの燃料を消費している。投入熱量は0.250×42,000=10,500kJ。1kW·h=3,600kJであるから、正味熱効率=3,600÷10,500≒0.343、約34%となる。
【出力60kWは不要な情報】熱効率は「取り出した仕事÷投入した熱量」の比であり、燃料消費率がkW·hあたりで与えられている時点で出力の絶対値は関係しない。試験問題では意図的に不要な数値が混ぜられることがあり、必要な量を見極める力も問われている。ただし出力を使う解き方もできる。60kWで1時間運転すれば燃料は60×250=15,000g=15kg、投入熱量は15×42,000=630,000kJ、得られた仕事は60kW×3,600s=216,000kJ。216,000÷630,000≒0.343で同じ結果になる。
【計算の型】正味熱効率=3,600÷(燃料消費率[kg/kW·h]×低位発熱量[kJ/kg])。分子の3,600は1kW·hのkJ換算値である。gをkgに直し忘れると1000倍ずれる。
【なぜ低位発熱量を使うのか】燃焼で生じた水蒸気は排気とともに高温のまま捨てられ、凝縮潜熱は回収できない。したがって実際に利用可能な低位発熱量を基準にする。
【数値感覚】ガソリンエンジンの正味熱効率は最良点で35〜41%程度、ディーゼルで40〜45%程度。残りは冷却損失、排気損失、機械損失として失われる。正味熱効率=図示熱効率×機械効率の関係も併せて押さえたい。
シャシ全88問中 8問を掲載
問9トルクコンバータのステータの機能に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1ポンプインペラの回転を直接タービンに伝達する
- 2ロックアップクラッチを油圧で締結する
- 3作動油の温度上昇を抑制するため冷却を行う
- ✔タービンから戻る油流の向きを変えてポンプインペラの回転を助け、トルクを増大させる
- 5タービンとポンプの回転差を検出し、変速点を決定する
解説:【正解】4「タービンから戻る油流の向きを変えてポンプインペラの回転を助け、トルクを増大させる」
【正解の根拠】ポンプインペラが送り出した油はタービンを回した後、そのままではポンプの回転を妨げる向きで戻ってくる。ステータはこの戻り油の向きを変え、ポンプの回転方向に沿って再流入させる。結果としてポンプは自分が出した以上の運動量を受け取る形になり、出力トルクが入力トルクを上回る。これがトルク増幅である。
【ワンウェイクラッチの意味】ステータはワンウェイクラッチで支持されている。速度比が小さい発進時は油の流入角度が大きくステータは固定され、反力を受け止めてトルクを増幅する。速度比が大きくなると流入角度が変わってステータを逆に押すようになるため、ワンウェイクラッチが空転してステータは油流の抵抗にならない。この領域をカップリングレンジといい、トルク比は1になる。
【誤答選択肢の検討】「ロックアップクラッチを締結する」のは別機構で、油圧により機械的に直結してすべりをなくす装置。ステータがなければトルク増幅は起こらず、単なる流体継手(フルードカップリング)になる点も併せて理解しておきたい。
【関連して押さえる】ストール(速度比0)でトルク比が最大となり、速度比の上昇とともに1へ近づく。伝達効率は逆に速度比が上がるほど高まるが、すべりがある限り100%にはならないためロックアップで直結する。近年は微小なすべりを許すスリップ制御により、低速側までロックアップ領域を拡大して燃費を改善している。
問10CVT(ベルト式無段変速機)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1プライマリプーリとセカンダリプーリの溝幅を変えて変速比を連続的に変化させる
- 2スチールベルトは、エレメントが押し合う圧縮力によって動力を伝達する
- 3変速比はプーリへのライン圧により制御される
- 4エンジンを常に最良燃費点付近で運転しやすい
- ✔発進時は必ず湿式多板クラッチのみが用いられ、トルクコンバータは使用されない
解説:【正解】5「発進時は必ず湿式多板クラッチのみが用いられ、トルクコンバータは使用されない」
【正解の根拠】CVTの発進デバイスにはトルクコンバータ方式、電磁クラッチ方式、湿式多板クラッチ方式などがあり、乗用車用では発進性能と静粛性の面からロックアップ付きトルクコンバータを採用する例が多い。「必ず湿式多板クラッチのみ」とする記述は誤りである。
【変速の原理】プライマリ(入力)とセカンダリ(出力)の2つのプーリは断面がV字で、油圧で溝幅を変えられる。溝幅を狭めるとベルトは外周側へ押し上げられて巻き付き径が大きくなり、広げれば内側に落ちて小さくなる。前後の巻き付き径の比が変速比となり、段差なく連続的に変えられる。
【スチールベルトの特異な点】一般のベルトは引張り力で伝達するが、金属ベルトは多数のエレメントが押し合う圧縮力で伝達する。押されて動く「押しベルト」であり、リングはエレメントを束ねて案内する役割を担う。この構造により高い伝達トルクと耐久性を実現している。
【ライン圧の重要性】ベルトがすべらないための挟持力と、変速比を変えるための推力はいずれもライン圧が生む。ライン圧が不足すればベルトがすべり、プーリ面に損傷を与える。逆に過大なら油圧ポンプの駆動損失が増える。必要最小限の圧力を精密に制御することが、CVTの効率と耐久性を左右する。
【実務での着眼点】専用ATFの使用が絶対条件で、摩擦特性が異なる油はすべりや異音を招く。変速比が指令どおりか、ライン圧が規定内かをデータで確認し、ベルトすべりの有無を切り分ける。
問11デュアルクラッチトランスミッション(DCT)の特徴として、最も適切なものはどれか。
- ✔奇数段と偶数段を別々のクラッチが受け持ち、次段をあらかじめ噛み合わせておくことで変速時間を短縮する
- 2トルクコンバータによりトルク増幅を行うため、発進時のトルク不足が生じない
- 3常に2組のクラッチを同時に締結して動力を伝達する
- 4変速比が無段階に変化するため、変速ショックが原理的に発生しない
- 5遊星歯車機構を用いず、変速はすべて電動モータで行う
解説:【正解】1「奇数段と偶数段を別々のクラッチが受け持ち、次段をあらかじめ噛み合わせておくことで変速時間を短縮する」
【正解の根拠】奇数段と偶数段に分けた2組のクラッチを持ち、一方で走行しながら他方で次の段をあらかじめ噛み合わせておく。変速時は2つのクラッチを掛け替えるだけなので、トルク切れがほとんどなく素早い変速ができる。
【AMTとの違い】AMT(自動化MT)は単板クラッチであり、変速中はクラッチを切るためトルクが途切れる。DCTは2組のクラッチで交互につなぐことで、この空白をなくしている。構造は複雑になるが、変速の質は大きく向上する。
【トルクコンバータ式ATとの違い】ATはトルクコンバータのすべりにより損失があるが、変速は滑らかで発進もスムーズである。DCTは機械的に直結するため伝達効率が高いが、発進時のクラッチ制御が難しく、微低速での挙動に癖が出やすい。
【湿式と乾式】
・乾式:摩擦材を油に浸さない。引きずり損失が小さく効率が高いが、放熱に限界があり大トルクや渋滞での連続半クラッチに弱い。
・湿式:油で冷却するため熱容量が大きく、大トルクに対応できる。引きずり損失はやや大きい。
【整備上の注意】専用のフルードが指定される。クラッチの摩耗量やストロークが学習値として管理されており、クラッチ交換や制御ユニット交換の後は初期化と学習が必要である。省略すれば変速不良や発進不良を招く。
【症状】発進時のジャダー、変速ショック、渋滞での過熱による警告。制御と機械の双方から切り分ける。
【実務での着眼点】学習値と温度のデータが診断の手がかりになる。
問12電子制御式リミテッドスリップデフ(LSD)やトルクベクタリング機構の目的として、最も適切なものはどれか。
- 1左右輪の回転差を完全に無くし、常に直結状態とする
- ✔左右輪へのトルク配分を能動的に制御し、旋回性能とトラクションを両立させる
- 3デファレンシャルの潤滑油量を制御する
- 4プロペラシャフトの共振を抑制する
- 5ファイナルギヤ比を走行中に変更する
解説:【正解】2「左右輪へのトルク配分を能動的に制御し、旋回性能とトラクションを両立させる」
【正解の根拠】トルクベクタリングは、左右輪へのトルク配分を能動的に制御して車両にヨーモーメントを与え、旋回性能とトラクションを両立させる技術である。差動を制限するだけの従来型LSDと異なり、走行状況に応じて配分そのものを変えられる点が本質的な違いである。
【従来型LSDとの違い】機械式LSDは片輪が空転したときに差動を制限し、駆動力が逃げるのを防ぐ「受動的」な装置である。トルクベクタリングは、空転していなくても旋回外輪へ多くトルクを配分して回頭を助けるといった「能動的」な制御を行う。前者は駆動力の確保、後者は加えて操縦性の向上を狙う。
【なぜ外輪に多く配分すると曲がるのか】外輪の駆動力が大きく内輪が小さければ、左右の駆動力差が車体を旋回方向へ回すモーメントを生む。逆に内輪側を増やせば安定方向に働く。ブレーキで内輪を制動する方式(ブレーキLSDやESCの一部機能)も、同じ効果をエネルギーを捨てる形で実現している。
【完全直結が不可の理由】左右輪を完全に直結すれば、旋回時に必要な左右の回転差を吸収できず、タイヤの引きずり、駆動系のねじれ、操縦性の悪化を招く。センタデフのない直結4WDで生じるタイトコーナブレーキング現象と同じ理屈である。
【実務での着眼点】専用の作動油が指定される場合が多く、劣化はジャダーや異音の原因となる。制御にはヨーレート、舵角、車輪速の情報が用いられるため、これらの学習や初期化が必要になる。
問13電動パワーステアリング(EPS)において、操舵トルクセンサが故障した場合の一般的なフェールセーフ動作として、最も適切なものはどれか。
- 1アシスト量を最大にして操舵力を軽くする
- 2ステアリングをロックして操舵不能とする
- ✔アシストを停止し、マニュアルステアリング状態とする
- 4自動的に直進位置へ操舵する
- 5エンジンを即座に停止させる
解説:【正解】3「アシストを停止し、マニュアルステアリング状態とする」
【正解の根拠】EPSは操舵トルクセンサの信号をもとにアシスト量を決めている。この信号が失われれば、どれだけ補助すべきか判断できない。誤ったアシストは重大な危険を招くため、フェールセーフとしてアシストを停止(または大幅に制限)し、警告灯を点灯させる。
【なぜ停止するのか】アシスト量を誤れば、意図しない方向へ操舵トルクが加わる。これは操舵不能や暴走につながる。「分からないなら何もしない」方が安全である。アシストがなくなれば操舵は重くなるが、機械的なつながりは残っているため操舵そのものは可能である。この設計により、最悪でも「重いハンドル」で済む。
【機械的なつながりの重要性】EPSはステアリングシャフトとラックが機械的につながっており、モータはそこに補助トルクを加える構造である。したがってモータが止まっても操舵はできる。これに対しステアバイワイヤでは機械的なつながりを持たないため、冗長性の確保(複数のモータ、複数の電源、バックアップ)がより厳格に求められる。
【他のフェールセーフ要因】電源電圧の低下、モータやECUの温度上昇(据切りの連続)、車速信号の異常、CAN通信の異常でもアシストが制限される。
【顧客への説明】「急にハンドルが重くなった」という訴えでは、この可能性を説明する。走行は可能だが、駐車時など低速での操舵に大きな力を要するため、注意が必要である。
【実務での着眼点】センサはトーションバーのねじれ量を検出する方式が多い。ステアリング脱着後は中立位置の学習が必要になる場合がある。
問14ABSの制御に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1車輪速センサの信号から車輪のスリップ率を推定して制御する
- 2スリップ率が概ね10~30%付近で路面摩擦係数が最大になることを利用する
- 3ハイドロリックユニット内の電磁弁により、増圧・保持・減圧を繰り返す
- ✔ABS作動により、あらゆる路面において必ず制動距離が短縮される
- 5作動中はブレーキペダルにキックバックや振動を感じることがある
解説:【正解】4「ABS作動により、あらゆる路面において必ず制動距離が短縮される」
【正解の根拠】ABSの目的は制動距離の短縮ではなく、車輪ロックを防いで操舵性と方向安定性を確保することにある。実際、新雪路や砂利路ではロックした車輪の前に路面材料が堆積して楔となり、これが大きな制動力を生む。ABSはこの効果を捨てるため、こうした路面では制動距離が延びることがある。
【スリップ率という考え方】スリップ率は(車体速度-車輪速度)÷車体速度で表す。0%が自由転動、100%が完全ロックである。制動方向の摩擦係数はスリップ率10〜30%付近で最大となり、それを超えると低下する。一方、横方向の摩擦係数はスリップ率の増加とともに単調に低下する。つまりロックすると制動力も横力も失われ、ハンドルを切っても曲がらなくなる。ABSはこの両立点に保つ制御である。
【油圧制御の中身】車輪速センサでロック傾向を検出すると、まず保持弁を閉じて液圧上昇を止め(保持)、なお回復しなければ減圧弁を開いてリザーバへ逃がす(減圧)。車輪速が回復すればポンプで戻して増圧する。この増圧・保持・減圧の高速な繰り返しが、ペダルのキックバックとして感じられる。
【実務での着眼点】車輪速センサとロータのすき間、ロータ歯の欠けや鉄粉付着、ハブベアリングのがたによる信号の乱れが不具合の典型である。ABSのDTCがあるとESCやヒルスタートアシストも同時に停止する点も押さえておく。
問15横滑り防止装置(ESC/VSA等)が用いるセンサの組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
- 1車輪速センサ・O2センサ・吸気圧センサ・舵角センサ
- 2ヨーレートセンサ・水温センサ・車速センサ・ノックセンサ
- 3舵角センサ・エアフローセンサ・横加速度センサ・車高センサ
- 4横加速度センサ・燃圧センサ・車輪速センサ・カム角センサ
- ✔車輪速センサ・舵角センサ・ヨーレートセンサ・横加速度センサ
解説:【正解】5「車輪速センサ・舵角センサ・ヨーレートセンサ・横加速度センサ」
【正解の根拠】ESCは「ドライバがどう曲がりたいか」と「車が実際にどう動いているか」を比較する制御である。前者は舵角センサと車輪速から求めた車速で推定し、後者はヨーレートセンサ(車体の回転角速度)と横加速度センサで測る。両者の差が大きければ、車両が意図どおりに曲がっていないと判定できる。
【アンダステアとオーバステアへの対処】舵角のわりに回頭が足りない(アンダステア)なら、旋回内側の後輪に制動をかけて内向きのヨーモーメントを与える。逆に回頭しすぎている(オーバステア)なら、旋回外側の前輪に制動をかけて外向きのモーメントで打ち消す。同時にエンジン出力も絞り、タイヤの摩擦力に余裕を作る。
【誤答選択肢の検討】O2センサ、吸気圧センサ、水温センサ、エアフローセンサ、燃圧センサはいずれもエンジン制御用であり、車両の運動状態を知る手がかりにはならない。ESCが必要とするのは運動を記述する4種のセンサだと整理すると覚えやすい。
【実務での着眼点】ESCはABSのハードウェアを共用しているため、車輪速センサ系の不具合は両方を同時に停止させる。またアライメント調整、ステアリング脱着、サスペンション交換の後は舵角センサの中立位置学習(ゼロ点設定)が必要となる車種が多い。学習を怠ると直進しているのに舵角が入っていると誤認し、不要な制御介入を招く。
問16ディスクブレーキのローターに生じるジャダー(制動時の振動)の原因として、最も考えにくいものはどれか。
- ✔ブレーキフルードに気泡が混入している
- 2ローターの厚さ不同(DTV)が過大である
- 3ローターの振れが規定値を超えている
- 4ハブ取付面への錆や異物の噛み込み
- 5パッド表面への異材質の偏った転写
解説:【正解】1「ブレーキフルードに気泡が混入している」
【正解の根拠】ジャダーは制動時のペダルやステアリングの振動である。ローターの厚さ不同(DTV)、振れ、ハブ取付面の錆や異物、ハブの振れ、パッドの偏摩耗や異材質の転写が原因となる。ブレーキフルードの銘柄は無関係である。
【厚さ不同(DTV)とは】ローターの円周上で厚みが不均一な状態である。制動するとパッドが厚い部分で強く押され、薄い部分で弱くなる。この変動が1回転ごとに繰り返され、振動として感じられる。数十μmの差でも体感される。
【なぜ厚さ不同が生じるか】
・振れ(ランアウト)がある状態で走行すると、ローターの特定部分だけがパッドに触れ続け、そこだけが摩耗する。振れが厚さ不同を生むという因果関係がある。
・過熱と急冷による熱変形。
・パッドの材料がローター表面に不均一に転写される(異材質転写)。
・長期間の放置による部分的な錆。
【ハブ取付面が起点になる】錆や異物、塗装の浮きがあると、ローターが傾いて取り付く。これが振れとなり、やがて厚さ不同へ発展する。ローター交換時に取付面を清掃することが重要な理由である。
【測定】ダイヤルゲージで振れを、マイクロメータで円周上数点の厚さを測る。規定値と比較する。
【処置】研磨で修正できる場合もあるが、最小厚さを下回ってはならない。ハブ側の振れが原因なら、ローターだけを交換しても再発する。
【実務での着眼点】締付けの不均一も振れを生む。対角順に規定トルクで締める。
電装・電子制御全84問中 8問を掲載
問17CAN通信(高速CAN)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- ✔アドレスにより送信先を指定し、1対1で通信を行う
- 2CAN-HとCAN-Lの2本のツイストペア線による差動電圧で信号を伝送する
- 3バスの両端に120Ωの終端抵抗が接続される
- 4アービトレーション(調停)により、優先度の高いメッセージが先に送信される
- 5ノイズが両線に同相で乗るため、差動方式により影響を受けにくい
解説:【正解】1「アドレスにより送信先を指定し、1対1で通信を行う」
【正解の根拠】CANはメッセージにID(識別子)を付けてバス上へ送信し、必要とするノードが自ら受け取るブロードキャスト方式である。送信先を指定するアドレス方式ではない。この方式のおかげで、あるデータを複数のECUが同時に利用でき、後からノードを追加しても既存の通信を変更せずに済む。
【アービトレーションの仕組み】複数のノードが同時に送信を始めた場合、各ノードは自分が出したビットとバス上の状態を1ビットずつ照合する。ドミナント(論理0)はレセッシブ(論理1)に打ち勝つため、レセッシブを出したのにバスがドミナントになっていたノードは、自分より優先度の高いメッセージが送信中だと判断して送信を中断する。IDの値が小さいほど優先度が高い。衝突によるデータ破壊が起きない点が大きな特徴である。
【物理層の理解】CAN-HとCAN-Lの2線をより合わせ、その電位差で信号を表す差動伝送である。外来ノイズは両線に同じように乗るため、差をとる段階で打ち消される。レセッシブでは両線とも約2.5Vで電位差ほぼ0V、ドミナントではH側3.5V・L側1.5Vで約2Vの差が生じる。バス両端の120Ωの終端抵抗は信号の反射を防ぐためのもので、2本並列となるため測定値は約60Ωになる。
【実務での着眼点】複数ECUで同時に通信途絶のDTCが出た場合は、個々のECUより先に幹線の断線・短絡、ジョイントコネクタ、電源とアース、終端抵抗を疑う。まず終端抵抗値を測り、次に波形を観測して対称性の崩れから異常箇所を推定する。
問18高速CANバスの終端抵抗をテスタで測定する場合、正常な車両(イグニッションOFF、コネクタ非切断)でCAN-H-CAN-L間の抵抗値として最も適切なものはどれか。
- 1約0Ω
- ✔約60Ω
- 3約120Ω
- 4約240Ω
- 5∞(導通なし)
解説:【正解】2「約60Ω」
【正解の根拠】バスの両端に120Ωの終端抵抗が接続されているため、CAN-HとCAN-Lの間で測定すると2本が並列になり、合成抵抗は120÷2=60Ωとなる。
【異常値からの推定】
・約120Ω:片側の終端抵抗またはその配線が失われている。ECU内蔵の終端であれば、そのECUの脱落や電源喪失も疑う。
・0Ωに近い:CAN-HとCAN-Lの短絡。
・∞(導通なし):幹線の断線により、測定点から両端の抵抗へ到達できていない。
測定は必ずイグニッションOFF、通信停止の状態で行う。通電中は電圧が印加されているため正しい抵抗値が得られない。
【終端抵抗の役割】高速な信号を伝送する線路では、末端で信号が反射して戻り、元の信号と干渉して波形を乱す。特性インピーダンスに整合した抵抗を末端に置くことで、信号のエネルギーを吸収し反射を防ぐ。抵抗が欠けると通信エラーが増え、負荷が半分になるため信号振幅も変化する。
【診断の順序】複数ECUで同時に通信途絶のDTCが出た場合、個々のECUより先に共通経路を疑う。まず終端抵抗値を測り、次にオシロスコープでCAN-HとCAN-Lの波形を観測する。正常ならレセッシブで両線2.5V、ドミナントでH側3.5V・L側1.5Vとなる。この対称性の崩れ方から、どちらの線が何に短絡しているかを推定できる。
【実務での着眼点】ジョイントコネクタや後付け電装品の接続部が原因となることも多い。
問19LIN通信に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 12本の信号線を用いる差動通信で、CANより高速である
- 2光ファイバを用いた通信方式である
- ✔1本の信号線による単線式で、マスタ・スレーブ方式の低速通信に用いられる
- 4エアバッグ等の安全系に用いられる高信頼通信である
- 5無線通信を用いてタイヤ空気圧センサと通信する規格である
解説:【正解】3「1本の信号線による単線式で、マスタ・スレーブ方式の低速通信に用いられる」
【正解の根拠】LINは1本の信号線による低速・低コストの通信規格である。マスタが送信を管理し、スレーブはその指示に従って応答する。ドアミラー、パワーウィンドウ、シートなど、高速性を必要としないボデー系の制御に用いられる。
【CANとの使い分け】
・CAN:2線の差動伝送、高速(最大1Mbps)、複数ノードが対等に送信でき、アービトレーションで調停する。制御系に用いる。
・LIN:1線、低速(最大20kbps程度)、マスタ・スレーブ方式で衝突が起きない。安価で配線も少ない。
すべてをCANにすればコストと配線が増える。速度が要らない部分をLINで済ませ、CANの下位に階層的に配置するのが一般的である。
【なぜマスタ・スレーブか】1本の線では、複数が同時に送信すれば衝突する。マスタが「誰が送るか」を指定する方式にすれば、衝突が原理的に起きない。制御が単純になり、安価な素子で実現できる。
【自動車での適用例】ドアミラーの格納と角度、パワーウィンドウのスイッチ、シートの位置調整、エアコンのアクチュエータ、レインセンサ、オルタネータの発電制御、ワイパモータ。いずれも数十ミリ秒の応答で足りる。
【診断】CANほど普及した測定手法がないが、波形は単線の電圧変化として観測できる。多くはCANゲートウェイを経由して診断機から状態を読める。
【故障の症状】特定のスレーブだけ動かない、あるいはLIN系統全体が動作しない。マスタとなるECUの異常なら、その配下すべてが影響を受ける。
【実務での着眼点】配線図でCANとLINの区別を把握しておくと、影響範囲の推定が速い。
問20熱線式エアフロメータ(ホットワイヤ式)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1吸入空気の質量流量を直接検出できる
- 2空気による熱線の冷却量に応じて、熱線を一定温度に保つための電流変化を利用する
- 3吸気温度による補正のため、温度補償抵抗が併設されている
- ✔熱線への汚損付着があると、実際より多い空気量を検出する傾向がある
- 5自己クリーニング機能として、エンジン停止後に熱線を加熱するものがある
解説:【正解】4「熱線への汚損付着があると、実際より多い空気量を検出する傾向がある」
【正解の根拠】熱線に汚れが付着すると、汚れが断熱層として働いて熱が空気に奪われにくくなる。すると少ない電流でも規定温度を維持できてしまうため、ECUは「空気が少ない」と判断する。つまり実際より少ない空気量として検出されるので、燃料噴射量が不足しリーン傾向となり、加速不良や失火、長期燃料補正のプラス側への偏りが現れる。
【検出原理をおさらいする】白金の熱線を周囲の空気より一定温度高く保つよう電流を制御し、その電流値から空気の質量流量を求める。空気の量が多いほど熱が奪われるため大きな電流が必要になる。温度による補正のため温度補償抵抗が併設されている。質量流量を直接測れる点が最大の利点で、標高や気温が変わっても補正なしに正しい値が得られる。
【誤答選択肢の検討】「多い空気量を検出する」は方向が逆である。「自己クリーニング機能」は実際に存在し、エンジン停止後に熱線を一時的に高温にして付着物を焼き切る方式が採られている。
【実務での着眼点】エアクリーナの汚れや社外エアクリーナからの繊維・オイルの飛散が汚損の原因になる。診断ではデータストリームの吸入空気量を、その回転速度と負荷における理論値(充填効率)と比較する。アイドリング時の絶対値だけでなく、全開加速時に規定の空気量まで伸びるかを確認すると劣化を捉えやすい。清掃は専用クリーナを用い、素子に触れないこと。
問21ジルコニア式O2センサの出力特性に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1空燃比に比例して0~5Vの範囲で直線的に変化する
- 2リッチ側で低電圧、リーン側で高電圧となる
- 3温度に関係なく常に安定した出力が得られる
- 4出力は電流値であり、電圧では検出できない
- ✔理論空燃比を境に出力電圧が急変し、リッチ側で約0.9V、リーン側で約0.1Vとなる
解説:【正解】5「理論空燃比を境に出力電圧が急変し、リッチ側で約0.9V、リーン側で約0.1Vとなる」
【正解の根拠】ジルコニア素子は高温で酸素イオンを通す性質があり、素子の内側(大気)と外側(排気)の酸素濃度差に応じて起電力を生じる濃淡電池として働く。理論空燃比を境に排気中の酸素濃度が桁違いに変化するため、出力もそこで急変する。リッチ(酸素が少ない)で約0.8〜0.9V、リーン(酸素が多い)で約0.1Vとなる。
【スイッチング特性の意味と限界】出力が急変するということは、λ=1の前後にいるかどうかは高精度で分かるが、「どれだけずれているか」は分からないということでもある。このためO2センサによる制御は、目標値の周りを行ったり来たりする振動的なものになる。三元触媒がλ=1近傍の狭いウィンドウでしか3成分を同時浄化できないため、この方式でも実用上は成立する。
【A/Fセンサとの違い】A/Fセンサ(全域空燃比センサ)は酸素ポンプ作用による限界電流を利用し、空燃比の値そのものをリニアに検出する。ずれの大きさに応じた補正ができるため、始動直後や過渡時の精度が高い。上流にA/Fセンサ、下流にO2センサを配置し、下流側で触媒の劣化を判定する構成が一般的である。
【実務での着眼点】活性化には約300〜400℃が必要で、そのためヒータを内蔵する。ヒータ回路のDTCは始動直後の排出ガス悪化に直結する。劣化判定は抵抗値ではなく、波形の振幅と切替りの応答速度で行う。応答が鈍っていてもDTCの閾値に達しないことが多く、燃費悪化の隠れた原因になりやすい。
問22クランク角センサに用いられるMRE(磁気抵抗素子)式が、電磁ピックアップ式に対して有利な点として最も適切なものはどれか。
- ✔極低回転(0回転付近)でも信号が出力できること
- 2電源を必要としないこと
- 3配線が1本で済むこと
- 4高温に対して無制限に強いこと
- 5出力が交流波形であること
解説:【正解】1「極低回転(0回転付近)でも信号が出力できること」
【正解の根拠】電磁ピックアップ式は電磁誘導を利用するため、起電力は磁束の変化速度に比例する。回転が遅いと起電力が小さく波形が得られない。MRE式やホール式は磁界の強さそのものを検出するため、回転速度に依存せず、極低回転や停止直前でも安定した矩形波が得られる。
【なぜこれが重要なのか】アイドリングストップ車では、停止した状態からの再始動時にクランク位置を正確に把握する必要がある。位置が分かれば無駄なクランキングをせず、圧縮行程にある気筒へ直接噴射・点火して素早く始動できる。停止時にどの気筒がどの行程にあるかを記憶しておく制御も、低回転で信号が得られることが前提となる。
【回転方向の判別】位相の異なる2つの素子を配置すれば、どちらが先に変化したかで回転方向を判別できる。エンジンの逆転検出や、車輪速センサでの前後進の判別に利用される。電磁ピックアップ式では方向の判別ができない。
【出力形式の違い】電磁ピックアップ式は交流波形(正弦波状)を出力し、電源を必要としない。MRE式やホール式は電源を必要とし、矩形波(デジタル信号)を出力する。ECU側の処理も異なるため、配線本数や波形の見え方が変わる。
【実務での着眼点】センサとロータのすき間(エアギャップ)、ロータ歯の欠けや鉄粉付着、配線のシールド処理が信号品質を左右する。オシロスコープで波形を観測し、欠け(歯抜け)や振幅の乱れを確認する。
問23オルタネータの発電制御(充電制御)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1ICレギュレータがフィールドコイルの電流を断続して出力電圧を調整する
- ✔発電制御車では、バッテリ端子に直接充電器を接続しても電流センサの検出に影響しない
- 3減速時に発電量を増やし、加速時に減らすことで燃費を改善する制御がある
- 4バッテリ電流センサによりSOCを推定し、目標発電電圧を可変する車両がある
- 5整流にはダイオードによる三相全波整流が用いられる
解説:【正解】2「発電制御車では、バッテリ端子に直接充電器を接続しても電流センサの検出に影響しない」
【正解の根拠】充電制御は、減速時に集中して発電し、加速時には発電を抑えることで燃費を改善する制御である。バッテリを意図的に満充電にせず、回生の余地を残す運用となる。
【なぜ燃費が良くなるか】発電にはエンジンの動力を使う。加速時に発電すれば、その分の燃料を余計に消費する。一方、減速時にはどのみち運動エネルギーが捨てられているので、そこで発電すれば燃料を消費せずに電力が得られる。発電のタイミングをずらすだけで燃費が改善する。回生の考え方の初歩的な形である。
【バッテリへの影響】満充電にしないため、常に部分充電状態(PSOC)で使われる。この状態は鉛蓄電池にとって過酷で、極板表面の硫酸鉛が結晶化するサルフェーションが進みやすい。したがって充電受入性とサイクル寿命を高めた専用バッテリ(EFB、AGM)が指定される。通常品の代用は早期劣化を招く。
【電流センサ】バッテリのマイナス端子に電流センサを備え、充放電量を積算して充電状態を管理している。ここを迂回して直接マイナス端子に接続すれば、ECUが充放電を正しく認識できず制御不良を招く。ジャンプスタートや充電器の接続では、車両指定のアース点を用いる。
【交換時の学習】バッテリ交換の際は、劣化度の積算値を初期化する必要がある車種が多い。省略すれば、新品でも劣化したものとして扱われる。
【顧客への説明】走行中に充電電圧が変動するのは正常である。故障ではない。
【実務での着眼点】バッテリの銘柄と規格、交換時の初期化を確認する。
問24アイドリングストップ車に使用されるバッテリに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1通常の始動用バッテリと互換性があり、どちらを使用しても差し支えない
- 2アイドリングストップ車では鉛バッテリは使用されない
- ✔頻繁な充放電と部分充電状態での使用に耐えるよう、充電受入性と耐久性を高めた専用品を使用する
- 4容量が小さいほどアイドリングストップの作動頻度が高くなる
- 5充電制御は行われないため、常に満充電に保たれる
解説:【正解】3「頻繁な充放電と部分充電状態での使用に耐えるよう、充電受入性と耐久性を高めた専用品を使用する」
【正解の根拠】アイドリングストップ車のバッテリは、始動回数が通常車の数十倍に達し、かつ満充電にならない部分充電状態(PSOC)での使用が常態となる。このため充電受入性とサイクル寿命を高めた専用品が指定される。通常の始動用バッテリを代用すると早期に劣化し、アイドリングストップが作動しなくなる。
【なぜ部分充電状態が過酷なのか】鉛蓄電池は充電が不十分な状態が続くと、極板表面の硫酸鉛が結晶化して充電を受け付けなくなる(サルフェーション)。従来の使い方では走行中に満充電まで戻せたが、充電制御とアイドリングストップの組み合わせでは意図的に満充電にしない運用となるため、この劣化が進みやすい。
【専用バッテリの種類】
・EFB(強化液式):従来型を強化し、充電受入性とサイクル寿命を高めたもの。
・AGM(吸収ガラスマット式):ガラス繊維に電解液を保持させ、内部抵抗が低く高い充電受入性と耐久性を持つ。より過酷な用途向け。
日本のJIS規格ではM-42、Q-85、N-55のような表記で区分される。
【交換時の注意】多くの車種でバッテリ交換の学習(初期化)が必要である。ECUは劣化度を積算して管理しており、新品に交換したことを認識させないと、劣化したままと判断してアイドリングストップを許可しない。
【実務での着眼点】「アイドリングストップが作動しない」訴えでは、まずバッテリ診断と作動禁止条件の成立状況をデータで確認する。
ハイブリッド・EV全78問中 8問を掲載
問25シリーズ方式ハイブリッド車の特徴として、最も適切なものはどれか。
- 1エンジンとモータの双方が機械的に駆動輪へ接続される
- 2低速はモータ、高速はエンジン直結と切り替える機構をもつ
- 3発電機を持たず、外部充電のみでバッテリを充電する
- ✔エンジンは発電のみを行い、駆動は電動モータが担う
- 5エンジンの回転速度は常に車速に比例する
解説:【正解】4「エンジンは発電のみを行い、駆動は電動モータが担う」
【正解の根拠】シリーズ方式ではエンジンは発電機を回すためだけに使われ、駆動輪とは機械的に切り離されている。駆動は電動モータが単独で担う。エンジン回転速度が車速に縛られないため、常に燃料消費率の最も良い運転点で回し続けることができる。
【3方式の整理】
・シリーズ方式:エンジンは発電専用。構造が単純だが、機械→電気→機械と2回の変換を経るため高速巡航では損失が積み重なる。
・パラレル方式:エンジンとモータの双方が機械的に駆動輪へつながる。既存の駆動系を活かせるが、エンジン回転速度は車速に拘束される。
・シリーズパラレル(動力分割)方式:遊星歯車でエンジン出力を分割し、一部を機械的に駆動へ、残りを発電機経由で電気的に駆動へ回す。MG1の回転速度を制御することでエンジン回転速度を車速から独立させられ、両方式の利点を併せ持つ。
【関連して押さえる】シリーズ方式の弱点である高速域の効率を補うため、高速巡航時のみエンジンと駆動軸をクラッチで直結する方式もある。低速はシリーズ、高速は直結という切り替えは、変換損失を避ける合理的な解である。
【実務での着眼点】方式によって故障探求の着眼点が変わる。シリーズ方式では発電機側の異常が走行不能に直結し、動力分割方式ではMG1の異常がエンジン始動そのものを妨げる。共線図で3要素の関係を理解しておくと、症状から原因を推定しやすい。
問26高電圧回路を扱う整備作業において、サービスプラグ(安全プラグ)を抜いた後に行うべき事項として、最も適切なものはどれか。
- 1直ちに高電圧コネクタを外して作業を開始する
- 2サービスプラグを抜けば完全に無電圧となるため、電圧測定は不要である
- 3低電圧バッテリのみを外し、サービスプラグは差したまま作業する
- 4エンジンを始動して高電圧を放電させる
- ✔取扱書に定められた待機時間(一般に10分程度)が経過した後、高電圧端子間の電圧を測定して残留電圧がないことを確認する
解説:【正解】5「取扱書に定められた待機時間(一般に10分程度)が経過した後、高電圧端子間の電圧を測定して残留電圧がないことを確認する」
【正解の根拠】サービスプラグを抜けばバッテリと車両側の回路は切り離されるが、インバータ内部の平滑コンデンサには依然として高電圧が蓄えられている。放電には時間がかかるため、取扱書で指定された待機時間(車種により5〜10分程度)を置いたうえで、絶縁手袋を着用して高電圧端子間の電圧を実測し、規定値以下であることを確認してから作業に入る。「抜いたから安全」という思い込みが最も危険である。
【なぜコンデンサに電圧が残るのか】インバータはスイッチングにより大きな電流を断続するため、電源電圧の変動を抑える平滑コンデンサが不可欠である。容量が大きいほど蓄えられる電荷も多く、回路が切り離されると放電経路がなくなるため電圧が長く残る。通常は放電抵抗が設けられているが、その放電に要する時間が待機時間として規定されている。
【作業管理という観点】抜いたサービスプラグは作業者本人が携行するか施錠して保管し、運転席や高電圧部に「高電圧作業中・操作禁止」の表示を掲示する。第三者が善意で戻してしまえば、無防備な状態で高電圧が印加される。これは労働安全衛生規則が停電作業で求める施錠・表示の考え方と同じで、人の注意力に頼らず物理的・手続的に操作できない状態を作ることが本質である。
【資格要件】ハイブリッド車の高電圧系(直流750V以下)は法令上の「低圧」に区分され、低圧の充電電路の敷設・修理等の業務には労働安全衛生法に基づく特別教育が必要である。絶縁手袋は使用前に空気を入れてピンホールを点検し、清浄・乾燥状態を保ち、定期的な耐電圧試験を受けたものを使う。
問27ハイブリッド車の高電圧絶縁用保護具に関する記述として、不適切なものはどれか。
- ✔絶縁手袋は濡れていても絶縁性能に影響しない
- 2絶縁手袋は使用前に空気を入れてピンホールがないか点検する
- 3絶縁手袋は定期的に耐電圧試験を受けたものを使用する
- 4絶縁手袋の上から作業用革手袋を重ねて、機械的損傷から保護することがある
- 5保護具は高温・直射日光を避けて保管する
解説:【正解】1「絶縁手袋は濡れていても絶縁性能に影響しない」
【正解の根拠】絶縁手袋は使用前に空気を入れてピンホールを点検し、清浄・乾燥状態を保つ。定期的な耐電圧試験を受けたものを使い、高温や直射日光を避けて保管する。外観に異常がなくても、微細な穴があれば絶縁性能は失われる。
【空気を入れる点検】手袋の口を巻き込んで空気を封じ、膨らませて漏れを確認する。目視だけでは発見できないピンホールを見つけられる。作業のたびに行うのが原則である。
【なぜ劣化するか】ゴムは紫外線、オゾン、油分、熱により劣化する。またとがったものとの接触で傷が入る。工具箱に無造作に入れておけば、いつの間にか損傷している。専用の容器に保管し、折り曲げないようにする。
【併用する保護具】絶縁手袋の上に作業用の革手袋を重ねれば、機械的な損傷から保護できる。ただし絶縁手袋を単独で使う場合は、鋭利なものに触れないよう注意する。保護めがね、絶縁性の工具も併せて用いる。
【耐電圧試験】定期的に専門機関で試験を受ける。試験の記録と有効期限を管理する。期限切れのものは使用しない。
【作業環境も含めて】保護具は最後の砦である。まずサービスプラグの取外しによる電源の遮断、区画の明示と立入制限、床面の乾燥という順序で対策を重ねる。保護具だけに頼らない。
【資格】低圧の充電電路の敷設・修理等の業務には、労働安全衛生法に基づく特別教育が必要である。
【実務での着眼点】保護具の管理台帳を作り、点検日と試験日を記録する。個人任せにしない。
問28リチウムイオンバッテリのSOC(充電状態)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1ハイブリッド車では常時満充電(SOC100%)に保つよう制御される
- ✔回生と力行の双方に余裕を残すため、中間付近のSOCを維持するよう制御されることが多い
- 3SOCが低いほど回生制動力を制限する必要がある
- 4SOCは電圧のみで正確に一意に決定できる
- 5SOCは温度の影響を受けない
解説:【正解】2「回生と力行の双方に余裕を残すため、中間付近のSOCを維持するよう制御されることが多い」
【正解の根拠】ハイブリッド車は減速のたびに回生電力を受け入れ、加速のたびにモータでアシストする。SOCが上限に近ければ回生を受け入れられずエネルギーを捨てることになり、下限に近ければアシストできず燃費と動力性能が落ちる。このため双方に余裕を残す中間域(おおむね40〜70%)を維持する制御が行われる。
【劣化の観点】高SOCと低SOCでの長時間保持はいずれも劣化を促進する。中間域の維持は、受入と放出の余裕を確保すると同時に、電池寿命を延ばす意味も持つ。プラグインハイブリッドや電気自動車で「満充電のまま長期保管しない」よう案内されるのも同じ理由である。
【SOCとSOHの区別】SOC(State of Charge)は現在の充電量、SOH(State of Health)は初期性能に対する現在の性能の比率である。SOHの低下は航続距離の減少、出力制限、回生量の減少として現れる。顧客から「劣化していないか」と問われた際は、年数で断定せずSOHやセル電圧のばらつきという客観的な値を示すのが適切である。
【推定の難しさ】SOCは電圧だけでは一意に決まらない。リチウムイオンは電圧が平坦な領域が広く、また負荷や温度によって端子電圧が変動する。実際には開回路電圧、電流の積算、温度、内部抵抗の推定値などを組み合わせてBMSが算出している。
【実務での着眼点】登坂の連続で出力が制限される訴えでは、SOCとバッテリ温度、冷却系の状態をデータストリームで確認する。空冷式では吸気口を荷物でふさいでいる、フィルタが詰まっているといった単純な原因も多い。
問29駆動用モータとして広く用いられる永久磁石式同期モータ(PMSM)の制御に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1界磁コイルの電流を変化させて回転速度を制御する
- 2直流電流をそのまま印加して回転させる
- ✔インバータにより三相交流の周波数と電圧(電流)を制御して回転速度とトルクを調整する
- 4ブラシと整流子により電流の向きを切り替える
- 5回転子位置の検出は不要である
解説:【正解】3「インバータにより三相交流の周波数と電圧(電流)を制御して回転速度とトルクを調整する」
【正解の根拠】PMSMは回転子の磁極位置に同期させて固定子の電流を制御する必要がある。したがってレゾルバなどで回転子の絶対角度を検出し、その情報をもとにベクトル制御を行う。
【なぜ位置情報が必要か】回転子は永久磁石であり、その磁束の向きは回転とともに変わる。トルクを最大にするには、この磁束に対して最適な角度で固定子の磁界を作る必要がある。位置が分からなければ、いつどの相に電流を流せばよいか決められない。角度が90度ずれれば、トルクを生まない電流ばかり流れて発熱するだけになる。
【誘導モータとの違い】誘導モータは回転子に磁石を持たず、固定子の回転磁界により回転子に電流を誘導して回す。位置情報がなくても回るが、すべりが必要で効率はやや劣る。PMSMは磁石により高い効率とトルク密度が得られるが、精密な位置制御が前提になる。
【弱め界磁制御】回転速度が上がると誘起電圧が電源電圧に近づき、それ以上電流を流せなくなる。磁石の磁束を打ち消す向きの電流(d軸電流)を流せば、見かけの界磁が弱まって高回転まで回せる。この領域では出力一定でトルクが低下する。
【回生】モータを発電機として使えば、制動しながら電力を回収できる。この切り替えも電流位相の制御で行う。
【整備上の帰結】モータやレゾルバの脱着後は、オフセット学習(位置合わせ)が必要である。省略すれば出力低下や過熱を招く。
【実務での着眼点】走行できるが加速が鈍い、発熱するといった分かりにくい症状になる。
問30レゾルバに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1高電圧バッテリの電流を検出するセンサである
- 2インバータの冷却水温度を検出するセンサである
- 3絶縁抵抗を常時監視する装置である
- ✔駆動用モータの回転子の絶対角度位置を検出するセンサで、耐熱・耐振性に優れる
- 5アクセル開度を検出するセンサである
解説:【正解】4「駆動用モータの回転子の絶対角度位置を検出するセンサで、耐熱・耐振性に優れる」
【正解の根拠】レゾルバは駆動用モータの回転子の絶対角度位置を検出するセンサである。励磁コイルと、90度ずらして配置された2組の検出コイルからなる回転トランスで、出力される正弦波と余弦波の比から角度を求める。半導体を用いないため高温・振動・ノイズに強く、モータルーム内の過酷な環境に適する。
【なぜ角度情報が不可欠か】永久磁石同期モータのベクトル制御では、回転子の磁極位置を基準として電流の位相を作る。磁極がどこにあるか分からなければ、いつどの相に電流を流せばよいか決められない。角度がずれれば、指令したトルクが出ない、効率が落ちる、発熱する、最悪の場合は制御が破綻する。
【オフセット学習】レゾルバの取付位相には個体差があるため、モータやレゾルバの脱着を伴う整備の後は、車種指定の手順でオフセット(基準位置のずれ)を学習させる必要がある。これを怠ると出力低下や過熱を招く。
【他のセンサとの区別】ホール素子やエンコーダも回転位置を検出できるが、半導体や光学素子を含むため高温に弱い。レゾルバは構造が単純で堅牢という点が採用理由である。なお絶対角度を出力するため、電源投入時に原点を探す動作が不要という利点もある。
【実務での着眼点】レゾルバの信号異常は、モータ制御系のDTCとして現れる。配線はシールドされており、補修時にシールドのアース処理を省略するとノイズにより誤検出を招く。コネクタの確実な嵌合も重要である。
問31高電圧回路の絶縁抵抗低下を車両側で監視する装置の名称として、最も適切なものはどれか。
- 1電流センサ
- 2レゾルバ
- 3昇圧コンバータ
- 4DC-DCコンバータ
- ✔漏電(絶縁抵抗)検出回路(リーク検出回路)
解説:【正解】5「漏電(絶縁抵抗)検出回路(リーク検出回路)」
【正解の根拠】高電圧系はボデーアースから絶縁されたフローティング回路として構成され、ハイブリッド/EVのECUが高電圧回路とボデー間の絶縁抵抗を常時監視している。規定値を下回ると警告灯を点灯させ、システムメインリレーを遮断するなどのフェールセーフを行う。
【なぜフローティングにするのか】12V系は片側(マイナス)を車体に接続する接地方式である。この方式では、プラス側が1か所でも車体に触れれば直ちに大電流が流れる。高電圧系で同じことが起きれば極めて危険なので、正極・負極のいずれも車体から絶縁する。こうすれば1か所が車体に触れても閉回路にならず、直ちに事故には至らない。
【1点故障では危険にならないという設計】絶縁が1か所失われた段階では電流は流れないが、2か所目が生じれば車体を経由して電流が流れる。したがって1か所目の時点で検出して警告し、2か所目に至る前に対処する。これが常時監視の意義である。
【監視の方法】高電圧回路とボデーの間に微小な信号を印加し、その応答から絶縁抵抗を推定する方式が用いられる。走行中も継続的に監視されている。
【絶縁低下の原因】部品内部の劣化や損傷、ケーブルの被覆損傷、コネクタの浸水、結露、導電性の粉じんや油分の付着、冠水などである。表面の汚損でも漏れ電流が増えるため、清掃と乾燥のうえで判定する。
【実務での着眼点】メガーによる測定は、システム停止・サービスプラグ取外し・放電確認のうえ、対象を切り離して行う。ECU接続のままでは素子を破壊する。
問32DC-DCコンバータの役割として、最も適切なものはどれか。
- ✔高電圧バッテリの電圧を降圧して補機バッテリの充電と12V系電装品への供給を行う
- 2高電圧直流を三相交流に変換し、駆動用モータを回す
- 3高電圧バッテリの電圧を昇圧してモータの高回転域性能を高める
- 4外部充電時に交流を直流に変換する
- 5回生電力を熱として消費させる
解説:【正解】1「高電圧バッテリの電圧を降圧して補機バッテリの充電と12V系電装品への供給を行う」
【正解の根拠】DC-DCコンバータは数百Vの高電圧を12V系へ降圧する装置で、従来車のオルタネータに相当する役割を担う。灯火、ワイパ、オーディオ、各ECUといった12V系の電装品へ電力を供給しつつ、補機バッテリを充電する。
【高電圧系の役割分担を整理する】
・システムメインリレー:高電圧バッテリと車両回路を接続・遮断する。異常検出時や衝突検知時に開く。
・プリチャージ回路:起動時に抵抗経由でコンデンサを徐々に充電し、突入電流によるリレー接点の溶着を防ぐ。
・昇圧コンバータ:バッテリ電圧を昇圧し、高回転域でモータの逆起電力に打ち勝つ電圧を確保する。同じ電力なら電流が減るため損失も下がる。
・インバータ:直流を三相交流に変換し、レゾルバの角度情報に同期させて電流位相を制御する。
・DC-DCコンバータ:高電圧を12Vへ降圧する。
この流れを図として頭に入れておくと、DTCの示す系統を素早く特定できる。
【実務での着眼点】補機バッテリは始動用の大電流を必要としないため容量が小さく、放置による電圧低下が早い。補機バッテリが上がると制御系が起動できず、システムメインリレーが閉じないため高電圧系も立ち上がらない。この状態では押しがけもできないので、車種指定の救援端子から12Vを供給してシステムを起動する。高電圧側へ救援ケーブルを接続することは絶対にしてはならない。
エアコン・車体全50問中 8問を掲載
問33カーエアコンの冷凍サイクルにおいて、冷媒が気化熱を奪って車室内の空気を冷やす部位はどれか。
- ✔エバポレータ
- 2コンプレッサ
- 3コンデンサ
- 4エキスパンションバルブ
- 5レシーバドライヤ
解説:【正解】1「エバポレータ」
【正解の根拠】エバポレータでは、エキスパンションバルブで減圧された低温低圧の液冷媒が蒸発する。液体が気体に変わる際には周囲から気化熱(潜熱)を奪うため、エバポレータを通過する空気が冷やされる。冷房とは「冷たさを作る」のではなく「熱を移動させる」仕組みである。
【4行程を流れで押さえる】
・圧縮(コンプレッサ):低温低圧のガスを高温高圧のガスにする。
・凝縮(コンデンサ):走行風や電動ファンで外気へ放熱し、高圧の液になる。
・膨張(エキスパンションバルブ):絞りにより減圧し、低温低圧の霧状にする。
・蒸発(エバポレータ):車室内の空気から熱を奪って蒸発し、低圧のガスに戻る。
この順序と、各部での冷媒の状態(ガスか液か、高圧か低圧か)を対応させて覚えると、圧力計の読みから異常箇所を推定できるようになる。
【圧力からの診断】低圧・高圧ともに低ければ冷媒不足、ともに高ければ過充填かコンデンサの放熱不良、低圧が真空側へ振れれば膨張弁やレシーバドライヤの詰まりが疑われる。飽和状態では圧力と温度が一対一に対応するため、低圧の圧力から蒸発温度を、高圧から凝縮温度を推定できる。
【実務での着眼点】冷媒が減っているということ自体が漏れの証拠である。補充のみで済ませれば再発が確実で、繰り返す放出は法令上も問題となる。蛍光剤、リークディテクタ、石けん水などで漏れ箇所を特定し、Oリングや配管、シールを修理する。
問34温度式エキスパンションバルブ(外部均圧式)の感温筒が検出しているものとして、最も適切なものはどれか。
- 1コンデンサ出口の冷媒温度
- ✔エバポレータ出口の冷媒温度
- 3コンプレッサの吐出温度
- 4車室内の吹出温度
- 5外気温度
解説:【正解】2「エバポレータ出口の冷媒温度」
【正解の根拠】感温筒はエバポレータの出口配管に密着して取り付けられ、出口を出た冷媒の温度、すなわち過熱度を検出している。過熱度が大きければ弁を開いて冷媒流量を増やし、小さければ絞る。これによりエバポレータ全体を有効に使いつつ、液冷媒がコンプレッサへ戻る液戻り(液圧縮)を防いでいる。
【過熱度という概念】蒸発が完了した後さらに温度が上がった分を過熱度という。過熱度がゼロに近いということは、出口にまだ液が残っている可能性があり、そのままコンプレッサへ吸い込まれれば液圧縮によりバルブや軸受を破損する。逆に過熱度が大きすぎると、エバポレータの後半が乾いた状態となり熱交換に使えていないことを意味する。適切な過熱度を保つのが膨張弁の役割である。
【外部均圧式の意味】エバポレータ内の圧力損失が大きい場合、入口圧力を基準にすると出口の実際の状態と食い違う。外部均圧管で出口側の圧力を弁へ導けば、出口の圧力と温度の双方で過熱度を正確に判断できる。
【実務での着眼点】感温筒の取付部の緩み、断熱材の欠落、密着不良は誤検出につながり、冷えすぎや冷え不足を招く。膨張弁の詰まりは低圧が真空側まで下がる特徴的な症状となり、詰まり部が冷えて霜が付くこともある。詰まりの背景に水分の混入がある場合は、レシーバドライヤの交換と十分な真空乾燥が不可欠である。
問35レシーバドライヤの機能として、不適切なものはどれか。
- 1冷媒中の水分を乾燥剤により吸着する
- 2冷媒中の異物をろ過する
- ✔冷媒を減圧・膨張させる
- 4液冷媒を一時的に蓄えて負荷変動に対応する
- 5気液を分離し、液冷媒のみを送り出す
解説:【正解】3「冷媒を減圧・膨張させる」
【正解の根拠】レシーバドライヤはコンデンサとエキスパンションバルブの間、すなわち高圧の液側に設けられる。役割は、乾燥剤による水分の吸着、フィルタによる異物のろ過、液冷媒の貯留による負荷変動への対応、そして気液分離により液のみを送り出すことである。冷媒の減圧・膨張は行わない。
【水分がなぜ問題なのか】系内に水分があると、エキスパンションバルブの絞り部で温度が下がった際に氷結して流路を塞ぐ。冷えたり冷えなかったりを繰り返す症状の原因になる。さらに冷媒やオイルと反応して酸を生成し、内部を腐食させてコンプレッサの焼損に至る。だからこそ修理後の真空引きが重要で、真空にすれば水は常温でも沸騰して蒸発除去できる。
【交換の判断】乾燥剤には吸着できる量に限りがあり、大気に長時間さらされると飽和する。系統を開放する修理を行った場合や、コンプレッサ焼損で金属粉が回った場合は交換が原則である。オリフィスチューブ方式では、低圧側にアキュムレータを置く構成となり、役割は似ているが設置位置と気液分離の考え方が異なる。
【実務での着眼点】コンプレッサ焼損時は、コンプレッサ交換だけでは新品が再び焼損する。金属粉が滞留しやすいレシーバドライヤとエキスパンションバルブを交換し、コンデンサや配管を洗浄し、オイル量を管理したうえで真空引きを行う。ここを省略した修理は高い確率で再発する。
問36エアコン系統の修理後に真空引き(真空乾燥)を行う主な目的として、最も適切なものはどれか。
- 1冷媒を系内に充填するため
- 2コンプレッサオイルを循環させるため
- 3冷媒の漏れ箇所を特定するため
- ✔系内の空気と水分を除去するため
- 5コンデンサを冷却するため
解説:【正解】4「系内の空気と水分を除去するため」
【正解の根拠】真空引きの目的は、系内に残る空気と水分の除去である。空気は不凝縮ガスとして高圧側の圧力を異常に上昇させ、冷房能力の低下とコンプレッサへの負担増を招く。水分は氷結による詰まりと、酸生成による腐食の原因となる。
【なぜ真空にすると水が抜けるのか】水の沸点は圧力に依存する。大気圧では100℃だが、真空度を高めていくと常温でも沸騰する。つまり加熱せずに液体の水を蒸発させ、ポンプで吸い出せる。到達真空度が不十分だと水は沸騰せず、いくら時間をかけても除去できない。真空ポンプのオイルは吸湿して劣化し到達真空度が落ちるため、定期的な交換が必要である。
【手順として押さえる】規定の真空度に達したらポンプを止め、しばらく放置して圧力が上昇しないことを確認する(真空保持試験)。上昇すれば漏れがあるか、まだ水分が蒸発し続けている。これを確認せずに冷媒を充填すると、漏れを抱えたまま作業を終えることになる。充填は必ず電子はかりで規定量を質量管理する。
【実務での着眼点】近年の車両は冷媒量が少なく、数十グラムの誤差が性能に影響する。装置の計量精度を保つ定期点検も必要である。またR134aとR1234yfは充填口の形状、適合オイル、回収機がいずれも異なり、混合は厳禁である。電動コンプレッサ車では絶縁性のあるPOE油が指定され、PAG油の混入は絶縁低下と機器損傷を招く。
問37エバポレータの凍結(フロスト)を防止する制御として、最も適切なものはどれか。
- 1ブロワファンを停止させる
- 2冷媒を大気へ放出する
- 3コンデンサファンを停止させる
- 4内気循環に固定する
- ✔エバポレータ温度センサ(サーミスタ)の信号により、コンプレッサを断続または容量を制御する
解説:【正解】5「エバポレータ温度センサ(サーミスタ)の信号により、コンプレッサを断続または容量を制御する」
【正解の根拠】エバポレータ温度センサ(またはサーミスタ)で表面温度または吹出温度を検出し、凍結温度に近づいたらコンプレッサを停止させる、あるいは容量を絞る。氷が張ればフィンの隙間が塞がり、風が通らなくなって冷房能力が失われる。
【なぜ凍結するのか】エバポレータでは冷媒が蒸発して熱を奪う。蒸発温度は低圧側の圧力で決まり、圧力が下がりすぎると0℃を下回る。空気中の水分が結露してフィンに付着しており、これが凍る。
【凍結すると何が起きるか】氷がフィンの間を塞ぎ、通風抵抗が急増する。風量が落ちて熱交換もできなくなり、冷えなくなる。運転を止めて融ければ回復するため、「しばらく走ると冷えなくなり、止めると直る」という症状になる。
【制御の方式】
・エバポレータ温度センサで検出し、コンプレッサのマグネットクラッチを断続する。
・外部可変容量式コンプレッサでは、容量を絞って蒸発温度を上げる。断続によるトルク変動がなく滑らかである。
・低圧圧力スイッチで一定圧力以下を検出する方式もある。
【診断の着眼点】
・センサの取付位置:フィンの間の指定位置に確実に差し込まれているか。抜けていれば正しく検出できない。
・センサの抵抗値と実温度の対応。
・風量不足:フィルタの目詰まりやブロワの不良で風が少なければ、熱を奪えず凍結しやすくなる。
・冷媒の過充填や膨張弁の不良も蒸発温度を下げる。
【実務での着眼点】「時間が経つと冷えなくなる」という訴えでは、この可能性を考える。
問38外部可変容量式コンプレッサに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔ECUからの電流指令でコントロールバルブを制御し、斜板角度を変えて吐出量を調整する
- 2吐出量は常に一定である
- 3マグネットクラッチの断続のみで能力を制御する
- 4吸入圧力のみで機械的に容量が決まり、電気制御は行われない
- 5容量を変えられるのは停止時のみである
解説:【正解】1「ECUからの電流指令でコントロールバルブを制御し、斜板角度を変えて吐出量を調整する」
【正解の根拠】外部制御式ではECUがコントロールバルブへの電流(デューティ)を指令し、クランク室の圧力を変化させて斜板の角度、すなわちピストンストロークを可変にする。必要な能力だけを発生させられるため、クラッチ断続による温度変動やトルクショックが減り、燃費と快適性が向上する。
【容量制御の原理】斜板式コンプレッサでは、斜板の傾きがピストンのストロークを決める。クランク室の圧力を高めるとピストンの戻りが妨げられて斜板の角度が小さくなり、吐出量が減る。クランク室の圧力は制御弁で吸入側・吐出側との連通を調整して変える。つまり冷媒そのものの圧力を使って自らの容量を変えている。
【内部制御式との違い】内部制御式は吸入圧力を感知して機械的に容量を決める。設定された吸入圧を保つよう自律的に動くが、車両側の都合(加速時のトルク軽減、暖機促進など)を反映できない。外部制御式はECUの判断で容量を変えられるため、加速時に一時的に容量を下げてエンジン負荷を軽減する、といった協調制御が可能になる。
【診断の考え方】ECUの指令値と実際の挙動(低圧・高圧の変化、吹出温度)を対比する。指令を変えても圧力が変わらなければ、制御弁の固着やコンプレッサ内部の不良が疑われる。指令自体が出ていなければ、入力側(エバポレータ温度、圧力センサ、日射、設定温度)や判定条件を確認する。
【実務での着眼点】マグネットクラッチを持たないクラッチレス型もあり、その場合はエンジン運転中は常に駆動される。
問39コンプレッサオイルに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1エンジンオイルで代用できる
- ✔冷媒の種類やコンプレッサの形式に応じた指定油を、規定量だけ使用する
- 3種類が異なっても混用して差し支えない
- 4多く入れるほど潤滑性が向上する
- 5電動コンプレッサでも同じ油種を使用できる
解説:【正解】2「冷媒の種類やコンプレッサの形式に応じた指定油を、規定量だけ使用する」
【正解の根拠】コンプレッサオイルは冷媒とともに系内を循環し、コンプレッサの摺動部を潤滑する。冷媒の種類とコンプレッサの形式に応じた油種が指定され、混用してはならない。
【冷媒との関係】オイルは冷媒に溶け込んで一緒に循環する。したがって冷媒との相溶性が必須である。R12にはミネラルオイル、R134aにはPAG(ポリアルキレングリコール)、電動コンプレッサにはPOE(ポリオールエステル)というように、組み合わせが決まっている。
【電動コンプレッサでPAGが使えない理由】ハイブリッド車やEVの電動コンプレッサでは、オイルがモータ巻線に直接触れる。PAGは吸湿性が高く導電性を持つため、絶縁抵抗を低下させる。わずかな混入でも絶縁警告や機器損傷を招き、洗浄しても完全には除去できない。専用の回収機を用い、機器を分ける必要がある。
【油量の管理】部品を交換すると、その部品に残っていたオイルも一緒に失われる。抜けた分を補充しなければ潤滑不足となり、逆に多すぎれば熱交換を妨げて冷房能力が落ちる。新品部品に封入されている量も考慮して総量を合わせる。
【コンプレッサ焼損時】金属粉が系内に拡散する。コンプレッサだけ交換しても再焼損する。レシーバドライヤと膨張弁を交換し、コンデンサや配管を洗浄し、オイル量を管理したうえで真空引きを行う。
【吸湿性】PAGは開封後すぐに吸湿する。使い切りを基本とし、長期保管したものは使わない。
【実務での着眼点】車両の冷媒種とコンプレッサ形式を確認してから油種を選ぶ。
問40フルオートエアコンの制御入力として、最も関係が薄いものはどれか。
- 1内気温センサ
- 2外気温センサ
- ✔車輪速センサ
- 4日射センサ
- 5エバポレータ温度センサ
解説:【正解】3「車輪速センサ」
【正解の根拠】オートエアコンは設定温度に対し、内気温・外気温・日射量から必要な吹出温度を演算し、エアミックスドア開度、風量、吹出口、内外気切替を制御する。エバポレータ温度は凍結防止と除湿制御に用いる。車輪速は空調制御の直接の入力ではない。
【熱負荷という考え方】車室内を設定温度に保つには、外部から入る熱と内部で発生する熱に見合った冷房または暖房が必要である。
・外気温:車室との温度差により熱が出入りする。
・日射量:ガラスから入る輻射熱。日射センサ(フォトダイオード)で検出する。方位により左右差もあるため、左右独立に検出する車種もある。
・内気温:現在の状態。目標との差が制御量を決める。
これらから必要な吹出温度を演算するのが基本的な制御構造である。
【各アクチュエータの役割】
・エアミックスドア:エバポレータで冷却・除湿した空気のうち、ヒータコアを通す割合を変えて吹出温度を作る。
・ブロワ:風量。トランジスタ式のPWM制御で無段階に変える。
・吹出口切替:フェイス、フット、デフロスタ。
・内外気切替:外気導入は換気と曇り防止、内気循環は冷房効率に有利。
【車速による補正】走行中はラム圧により外気導入量が増えるため、風量を補正する車種もある。これは「直接の入力ではないが補正に使う」という位置づけである。
【実務での着眼点】片側だけ温度が変わらない症状では、エアミックスドアのアクチュエータや位置学習を疑う。
二輪自動車全50問中 8問を掲載
問41道路運送車両法における二輪自動車の区分と自動車検査証の有効期間に関する記述として、正しいものはどれか。
- ✔排気量250cm³を超える二輪の小型自動車は検査の対象で、自家用は初回3年・以降2年である
- 2すべての二輪自動車が検査の対象である
- 3排気量125cm³を超えるものが検査の対象である
- 4二輪自動車に検査制度はない
- 5軽二輪(250cm³以下)も初回3年・以降2年で検査を受ける
解説:【正解】1「排気量250cm³を超える二輪の小型自動車は検査の対象で、自家用は初回3年・以降2年である」
【正解の根拠】排気量250ccを超える二輪自動車は「二輪の小型自動車」として検査の対象となり、有効期間は初回3年、以降2年である。250cc以下(軽二輪)は検査の対象外だが、12か月点検の義務はある。
【区分の整理】
・原動機付自転車:50cc以下(第一種)、50cc超125cc以下(第二種)。検査対象外。
・軽二輪:125cc超250cc以下。検査対象外だが、届出と自賠責が必要。
・二輪の小型自動車:250cc超。検査対象。初回3年、以降2年。
排気量で区分が変わり、必要な手続と義務も変わる。
【誤解されやすい点】「車検がないから点検も不要」ではない。道路運送車両法により、二輪自動車には12か月ごとの定期点検整備の義務がある。検査の対象外である軽二輪も同様である。検査と点検は別の制度である。
【なぜ二輪でも点検が必要か】二輪は転倒が直ちに人身被害につながる。ブレーキ、タイヤ、チェーン、灯火の状態が安全を大きく左右する。四輪より部品が露出しており、雨や飛石の影響も受けやすい。むしろ点検の価値は高い。
【自賠責保険】排気量にかかわらず、すべての二輪と原付に加入義務がある。未加入での運行は違反であり、事故時の補償も受けられない。期限切れが多いため、確認と案内が重要である。
【近年の動向】新基準原付など、区分に関する制度は見直されることがある。最新の情報を確認する。
【実務での着眼点】顧客に点検の義務と価値を説明する機会は多い。
問42多くの二輪自動車で、エンジンオイルが変速機および湿式多板クラッチと共用されていることによる要求事項として、最も適切なものはどれか。
- 1省燃費性を最優先し、摩擦調整剤を多く含む四輪用オイルを使用する
- ✔クラッチのすべりを防ぐため、摩擦特性を規定したJASO MA等の規格に適合するオイルを使用する
- 3粘度は低いほどよく、種類は問わない
- 4ギヤオイル用のGL-5を使用する
- 5オイル交換は不要である
解説:【正解】2「クラッチのすべりを防ぐため、摩擦特性を規定したJASO MA等の規格に適合するオイルを使用する」
【正解の根拠】多くの二輪はエンジンオイルが変速機とクラッチの潤滑を兼ねている。四輪用の省燃費オイルにはモリブデンなどの摩擦調整剤が多く含まれ、摩擦を減らすよう設計されているため、湿式クラッチではすべりの原因となる。このためJASO規格でクラッチのすべりにくさを規定したMA(MA1・MA2)に適合するオイルを使う必要がある。
【JASO規格の区分】MAはクラッチの摩擦特性を確保した二輪用、MBは摩擦特性の要求が低いスクータ等向けである。MA2はMA1より高い摩擦特性を持つ。車種の指定に従うのが原則で、「粘度さえ合っていればよい」という判断は誤りである。
【せん断安定性という論点】変速機のギヤの噛み合い部では油膜が強いせん断を受け、粘度指数向上剤のポリマーが切断されて粘度が低下する。二輪用オイルはこのせん断安定性も考慮して配合されている。四輪用を流用すると、短期間で粘度が落ちて潤滑性能が損なわれることがある。
【関連する不具合】クラッチのすべりは、加速時にエンジン回転だけが上昇して車速が伴わない症状として現れる。原因はオイルの不適合のほか、レバー遊びの不足による半クラッチ状態の継続、フリクションプレートの摩耗、クラッチスプリングのへたりが挙げられる。逆に長期放置ではプレート同士が固着する「張り付き」が起こり、レバーを握っても切れずギヤを入れると急発進する危険がある。
問43二輪自動車のドライブチェーンの整備に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1たるみは少ないほどよく、張り切って調整する
- 2給油は不要である
- ✔規定のたるみ量に調整し、前後スプロケットの整列(アライメント)を確認する
- 4たるみが大きいほど駆動効率が向上する
- 5調整は前輪側で行う
解説:【正解】3「規定のたるみ量に調整し、前後スプロケットの整列(アライメント)を確認する」
【正解の根拠】チェーンは車種ごとに規定のたるみ量が定められており、その範囲に調整する。同時に、左右のアジャスタ目盛を合わせて前後スプロケットの整列(アライメント)を確認する必要がある。
【張りすぎ・緩みすぎの弊害】張りすぎると、サスペンションが縮んでスイングアームピボットとスプロケットの距離が最大になった瞬間にチェーンが突っ張り、チェーン自体、スプロケット、出力軸のベアリングに過大な荷重がかかる。緩みすぎるとチェーンが暴れて外れる危険があり、スイングアームへの打痕や異音の原因にもなる。規定のたるみは、この両方を避ける妥協点として決められている。
【整列の重要性】左右のアジャスタがずれていると前後スプロケットが平行でなくなり、チェーンが斜めに噛み合ってスプロケットの歯を片減りさせる。また後輪が斜めを向くため直進性も損なわれる。目盛だけでなく、実際に後輪の向きを確認する方法も併用したい。
【給油とスプロケット】シールチェーンではOリングやXリングがピン内部のグリースを保持しているため、シールを侵さない専用潤滑剤を使う。灯油やパーツクリーナでの洗浄はシールを傷める。伸びたチェーンを使い続けるとスプロケットの歯が鉤状に摩耗するため、チェーンとスプロケットは一組として同時交換するのが原則である。
【実務での着眼点】たるみ量の測定位置は車種で指定されている。またリンクの動きが渋い箇所(固着)がないか、1周させて確認する。
問44二輪自動車の「トレール量」に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1前輪と後輪の車軸間の距離をいう
- 2前輪の切れ角の最大値をいう
- 3前後輪の中心線のずれをいう
- ✔ステアリング軸の延長線と路面の交点から、前輪接地点までの距離で、大きいほど直進安定性が高まる
- 5大きいほど旋回性が向上し、直進安定性は低下する
解説:【正解】4「ステアリング軸の延長線と路面の交点から、前輪接地点までの距離で、大きいほど直進安定性が高まる」
【正解の根拠】トレール量は、操舵軸(ステアリングステム軸)の延長線が路面と交わる点から、前輪の接地点までの距離である。四輪のキャスタトレールに相当する。この距離が大きいほど、走行中に前輪を直進方向へ戻そうとするモーメントが大きくなり、直進安定性とセルフアライニングトルクが高まる。
【何で決まるか】トレール量はキャスタ角とオフセット(三つ又のステム軸からフォーク軸までの前方向のずれ)、そしてタイヤ外径の組み合わせで決まる。キャスタ角を寝かせるほど、またオフセットを小さくするほどトレールは大きくなる。設計者はこの3要素で操縦性の性格を作り込んでいる。
【トレードオフ】トレールが大きいと高速での直進安定性は増すが、セルフアライニングトルクも増えるため低速での取り回しが重く、旋回の軽快さは損なわれる。逆に小さくすると軽快になる代わりに、高速でのふらつきやウォブルが出やすくなる。
【実務での着眼点】フロントフォークの突き出し量(三つ又からの突き出し)を変えると車体姿勢が変わり、キャスタ角とトレール量が同時に変化する。またタイヤ外径の異なる銘柄への変更も同様の影響を及ぼす。「なんとなくハンドリングが変わった」という訴えの背景に、こうした変更が隠れていることがある。事故によるステムやフォークの曲がりも、左右非対称なトレール変化として現れるため、寸法の確認が必要である。
問45二輪自動車のタイヤの溝の深さの限度として、保安基準上正しいものはどれか。
- 1接地部の全周にわたり1.6mm以上
- 2接地部の全周にわたり2.4mm以上
- 3接地部の全周にわたり3.2mm以上
- 4規定はない
- ✔接地部の全周にわたり0.8mm以上
解説:【正解】5「接地部の全周にわたり0.8mm以上」
【正解の根拠】二輪自動車のタイヤは、接地部の全周にわたり0.8mm以上の溝の深さが必要である。乗用四輪の1.6mmより小さい値だが、これは法令上の限界であって、安全上の余裕を意味しない。
【車種別の基準】
・二輪自動車、原動機付自転車:0.8mm
・乗用自動車、軽自動車:1.6mm
・小型トラック等:2.4mm
・大型トラック、バス:3.2mm
【なぜ二輪が小さいのか】接地面積が小さく、排水すべき水量も相対的に少ないためとされる。しかし二輪は接地点が2点しかなく、グリップを失えば直ちに転倒に至る。四輪のように「滑りながら進む」余地がない。したがって法令上の限界に近づく前の交換が望ましい。
【スリップサインとの関係】残溝の限度位置にウェアインジケータが設けられている。露出すれば限度である。溝の深さを測る場合は、この部分を避けて測る。元から浅く作られているためである。
【二輪特有の摩耗】センター部分が早く減る傾向がある。直進走行では中央だけが接地するためである。ショルダー部の溝が残っていても、センターが限度なら交換となる。またセンターが平らに摩耗すると、倒し込みの挙動が不自然になる。
【経年劣化】溝が残っていても、製造から年数が経てばゴムが硬化しグリップが落ちる。サイドウォールの4桁表示で製造時期を確認する。使用頻度の低い車両ほど、年数での判断が重要になる。
【実務での着眼点】残溝の実測値を記録すれば、摩耗ペースから交換時期を予測できる。
問46二輪自動車のブレーキに関する保安基準の記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔排気量125cm³を超える二輪自動車にはABSの装備が義務付けられ、50cm³超125cm³以下ではABSまたはCBSの装備が求められる
- 2二輪自動車にABSの装備義務はない
- 3すべての二輪自動車にABSが義務付けられている
- 4CBS(前後連動ブレーキ)はABSの上位機能である
- 5原動機付自転車には制動装置の規定がない
解説:【正解】1「排気量125cm³を超える二輪自動車にはABSの装備が義務付けられ、50cm³超125cm³以下ではABSまたはCBSの装備が求められる」
【正解の根拠】国際基準への調和により、新型車は平成30年10月、継続生産車は令和3年10月から、排気量125cm³超の二輪にABSが、50cm³超125cm³以下にはABSまたはCBS(前後輪連動ブレーキ)の装備が義務付けられた。
【なぜ二輪でABSの効果が大きいか】四輪では車輪がロックしても車体は滑りながら進むが、二輪はバランスを失って転倒する。特に前輪のロックは即座に転倒に至る。またパニック時に前輪ブレーキを強く握れない、あるいは握りすぎるという操作の難しさもある。ABSはこの操作の難しさを機械が補う装置であり、事故低減効果が実証されている。
【CBSとは】前後どちらかのブレーキ操作で、前後両方に制動力を配分する機構である。後輪ブレーキだけを使う傾向のある運転者でも、前輪の制動力が併せて働くため、制動距離が短縮され姿勢も安定する。ABSほど高度ではないが、小排気量車での効果が期待される。
【荷重移動という前提】二輪は重心が高くホイールベースが短いため、制動時の前方への荷重移動が大きい。強い制動では前輪が8割以上を負担することもある。したがって前輪ブレーキの整備状態が制動性能を直接左右する。この特性がABSやCBSの必要性の背景にある。
【整備上の着眼点】ABS装着車ではエア抜きに専用の手順(スキャンツールによるユニット内の作動)が必要な場合がある。車輪速センサとロータの状態、すき間、鉄粉の付着も点検対象となる。
【顧客への説明】ABSは万能ではなく、路面μを超える制動はできないことも伝える。
問47二輪自動車のテレスコピック式フロントフォークの整備に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1オイルは入れるほど減衰力が上がるので多い方がよい
- ✔フォークオイルは指定の粘度・油面(油量)に合わせ、左右同一の条件で管理する
- 3左右で油量が異なっても支障はない
- 4オイルシールから漏れがあっても走行に影響はない
- 5フォークオイルは無交換でよい
解説:【正解】2「フォークオイルは指定の粘度・油面(油量)に合わせ、左右同一の条件で管理する」
【正解の根拠】フロントフォークはサスペンションであると同時に、前輪を支持し操舵を担う構造部材である。オイル漏れ、インナチューブの傷や錆、曲がり、左右の突き出し量の不揃いが不具合となる。分解にはオイルの規定量と油面の管理が必要である。
【オイルの役割】フォーク内のオイルは減衰力を発生させ、同時に摺動部を潤滑する。量と油面の高さが減衰特性を決めるため、規定値の管理が重要である。油面が高ければ、ストローク後半で空気ばねが強く効いて硬くなる。少なければ底付きしやすい。
【オイル漏れ】オイルシールの劣化、あるいはインナチューブの傷や錆がシールを傷つけることで生じる。漏れたオイルがブレーキパッドやローターに付着すれば制動力が失われる。二輪では前輪の制動力が支配的であるから、極めて危険である。
【インナチューブの状態】表面の硬質めっきが剥がれたり錆びたりすれば、シールを傷める。飛石による点錆も同様である。ダストシールの管理と定期的な清掃が予防になる。
【突き出し量】三つ又からの突き出し量を変えると、キャスタ角とトレール量が変わり、操縦性が変化する。左右で不揃いなら、直進性が損なわれる。分解前に測定して記録する。
【曲がり】転倒や事故でインナチューブが曲がることがある。目視では分かりにくく、動きの渋さや直進性の異常として現れる。振れの測定で確認する。
【実務での着眼点】オイル漏れは制動力に直結する。早期の対応が必要である。
問48二輪自動車のホイールベアリングやステアリングステムベアリングの点検として、最も適切なものはどれか。
- 1車体を地面に接地させたまま目視のみで判断する
- 2ガタがあれば締付けトルクを上げて解消する
- ✔車体を安定した状態で持ち上げ、ガタ・引っかかり・異音の有無を手で確認する
- 4異音がなければ内部の錆や打痕はないと判断できる
- 5走行中の振動のみで判断する
解説:【正解】3「車体を安定した状態で持ち上げ、ガタ・引っかかり・異音の有無を手で確認する」
【正解の根拠】二輪は接地点が2点しかなく、ベアリングのがたや引っかかりが直接ふらつきや転倒につながる。車体を安定した状態で確実に支持したうえで、ガタ、引っかかり、異音の有無を手で確認する。
【ホイールベアリングの点検】車輪を持ち上げ、
・軸方向と径方向にゆすってがたを確認する。
・手で回転させ、ゴロゴロ感、引っかかり、異音を確認する。
・回転の重さも見る。ダストシールの引きずりや、内部の錆による抵抗。
がたがあれば直進性が損なわれ、進行すれば車輪の支持が失われる。
【ステムベアリングの点検】
・前輪を浮かせ、ハンドルを左右にゆっくり振る。引っかかりや重い箇所がないか。
・特に直進位置で「落ち込む」ような感触があれば、直進走行の振動により軌道に打痕(フレッチング)が生じている。高速でのふらつきや、手放し時の振れの原因となる。
・フロントフォークを前後に押し引きし、がたを確認する。
【調整の考え方】ステムベアリングは規定のプリロードで調整する。締め過ぎれば操舵の引っかかりを生み、緩ければがたつく。締結トルクだけでなく、実際の操舵感で確認することが重要である。
【なぜ二輪で重大か】四輪ではがたがあっても即座に転倒はしないが、二輪では操縦性の乱れが直接転倒につながる。またステムの引っかかりは、緊急回避時の操作を妨げる。
【実務での着眼点】転倒歴のある車両では、ステムやフォークの曲がりも疑う。
大型車・特殊装置全50問中 8問を掲載
問49空気圧式ブレーキ(エアブレーキ)の基本構成として、最も適切なものはどれか。
- ✔エアコンプレッサ→エアドライヤ→エアタンク→ブレーキバルブ→ブレーキチャンバ
- 2マスタシリンダ→ホイールシリンダ→ブレーキチャンバ
- 3エアタンク→マスタシリンダ→キャリパ
- 4真空ポンプ→ブースタ→ホイールシリンダ
- 5エアコンプレッサ→ブレーキチャンバ→エアタンク
解説:【正解】1「エアコンプレッサ→エアドライヤ→エアタンク→ブレーキバルブ→ブレーキチャンバ」
【正解の根拠】エンジン駆動のコンプレッサが圧縮空気を作り、エアドライヤで水分と油分を除去してエアタンクへ蓄える。運転者のペダル操作をブレーキバルブが空気圧に変換し、リレーバルブを介してブレーキチャンバへ送る。チャンバのダイヤフラムがプッシュロッドを押し、スラックアジャスタとSカムを介してブレーキシューを拡張する。この順序が系統理解の骨格になる。
【油圧式との根本的な違い】油圧は非圧縮性の液体で力を直接伝えるが、空気は圧縮性があるため、ペダル操作は「力を伝える」のではなく「圧力を指令する」形になる。大型車の巨大な制動力を運転者の踏力で直接作ることは不可能であり、蓄えた圧縮空気のエネルギーを使う方式が必然となる。
【各部品の存在理由】
・エアドライヤ:水分は凍結してブレーキ不作動を招くため除去する。乾燥剤はパージにより再生される。
・リレーバルブ:長い配管を通して大量の空気を送ると応答が遅れるため、信号圧を受けて近くのタンクから直接給排する。
・保護弁:1系統の漏れが全系統に波及しないよう、圧力低下した系統を切り離す。
・スプリングブレーキ:ばねで制動しエア圧で解除するため、エア圧が失われると自動的に制動側へ働く。
【実務での着眼点】エアタンクの水抜きは日常点検の基本項目である。エアドライヤがあっても完全ではなく、乾燥剤の劣化やコンプレッサからの油の持ち込みで性能は落ちる。冬季の凍結は重大事故に直結する。
問50リレーバルブを設ける目的として、最も適切なものはどれか。
- 1エアタンクの圧力を一定に保つ
- ✔ブレーキバルブからの信号圧を受け、チャンバ近傍のエアタンク空気を直接給排することで作動遅れを短縮する
- 3空気中の水分を除去する
- 4駐車ブレーキを解除する
- 5エアコンプレッサの回転を制御する
解説:【正解】2「ブレーキバルブからの信号圧を受け、チャンバ近傍のエアタンク空気を直接給排することで作動遅れを短縮する」
【正解の根拠】運転席のブレーキバルブからチャンバまでは配管が長く、そこを通して大量の空気を送り込むと、給気にも排気にも時間がかかって制動の立ち上がりと解除が遅れる。リレーバルブはブレーキバルブからの圧力を「制御信号」として受け取り、チャンバに近い位置のタンクから大流量の空気を直接給排する。信号は細い配管で速く伝わり、実際の空気は短い経路で流れるため、応答が大幅に改善する。
【電気回路との類比】小さな信号電流でリレーを動かし、大電流を負荷の近くで断続する電気リレーとまったく同じ発想である。名称が「リレー」バルブであるのもこの類比による。この対応関係を押さえると機能を忘れにくい。
【配置の理解】後軸側やトレーラ側など、運転席から遠い位置に設けられる。トラクタとトレーラの連結ではエア配管が長大になるため、トレーラ側のリレーバルブが制動の同期に重要な役割を果たす。EBSでは電気信号を先行して伝えることで、さらに応答遅れを短縮している。
【実務での着眼点】リレーバルブの不良は、制動の遅れ、解除の遅れによる引きずり、前後軸の制動タイミングのずれとして現れる。前後軸で効き始めがずれると、積車時には後押しされる挙動、空車時には後輪の早期ロックにつながる。ブレーキチャンバのプッシュロッドストロークの左右差・前後差も併せて確認したい。
問51スプリングブレーキ(駐車ブレーキ)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1空気圧を加えることで制動する構造である
- 2エア圧が低下すると解除される
- ✔ばね力で制動し、空気圧を加えることで解除する構造のため、エア圧が低下すると自動的に制動側へ作動する
- 4エンジン停止中は一切作動しない
- 5主制動装置と同一の系統で作動する
解説:【正解】3「ばね力で制動し、空気圧を加えることで解除する構造のため、エア圧が低下すると自動的に制動側へ作動する」
【正解の根拠】スプリングブレーキは強力なばねの力で制動し、空気圧を加えてばねを圧縮することで解除する構造である。したがってエア配管の破損などで空気圧が失われると、自動的に制動側へ作動する。これはフェールセーフ設計の代表例で、圧力喪失=制動不能とならないよう意図的に逆の関係にしてある。
【主制動装置との関係】主制動装置は空気圧を加えて制動するのに対し、スプリングブレーキは空気圧を抜いて制動する。同じチャンバに両方の機構を収めたスプリングブレーキチャンバでは、サービス側とスプリング側で作動の向きが逆になる。この違いを理解していないと、整備時の作動確認で混乱する。
【整備上の重大な注意】チャンバ内のばねは極めて強力で、不用意に分解すると部品が高速で飛び出し重大災害となる。解除が必要な場合は専用のリリースボルトでばねを機械的に圧縮する方法によるが、この状態では駐車ブレーキが機能しないため、輪止めによる逸走防止措置が不可欠である。作業後は必ず元の状態へ復帰させ、作動を確認する。
【実務での着眼点】整備で車両を移動させる際、エア圧が規定まで上がっていないとスプリングブレーキが解除できない。無理に動かそうとせず、規定圧まで蓄圧するのが基本である。またエア漏れがあると駐車中に徐々に圧力が下がり、翌朝に解除できないという症状で顕在化することがある。
問52エアドライヤの機能と整備に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1乾燥剤により圧縮空気中の水分を吸着し、パージ(排気)時に再生する
- 2乾燥剤カートリッジは定期交換が必要である
- 3機能が低下するとタンク内に水分が溜まり、冬季の凍結や各バルブの腐食を招く
- ✔エアドライヤがあれば、エアタンクのドレン点検は不要である
- 5コンプレッサのオイル上がりが多いと、乾燥剤が油で被毒し性能が低下する
解説:【正解】4「エアドライヤがあれば、エアタンクのドレン点検は不要である」
【正解の根拠】エアドライヤは乾燥剤で水分を吸着し、パージ(排気)時に乾燥剤を再生する。しかし除去は完全ではなく、乾燥剤の劣化やコンプレッサからの油の持ち込みで性能が低下する。したがってエアタンクのドレンからの水抜き点検は日常点検項目として継続的に必要であり、省略できない。
【水分がなぜ致命的か】タンクや配管に溜まった水は、冬季に凍結して配管やバルブを塞ぐ。ブレーキが効かない、あるいは解除できないという事態は重大事故に直結する。また水分は各バルブやチャンバ内部を腐食させ、作動不良の原因にもなる。
【油分の問題】コンプレッサのオイル上がりが多いと、油が乾燥剤に付着して吸着能力を奪う(被毒)。エアドライヤの性能低下の背景に、コンプレッサの摩耗があることが少なくない。ドレンから排出される液に油分が多い場合は、コンプレッサ側も点検する。
【再生の仕組み】ガバナが規定圧到達を検知すると、エアドライヤは圧縮空気の一部を逆流させて乾燥剤から水分を放出し、大気へパージする。このときプシューという排気音がする。パージが行われないと乾燥剤は飽和したままとなるため、この作動音の有無も点検の手がかりになる。
【実務での着眼点】乾燥剤カートリッジは定期交換部品である。交換周期は使用条件で変わるため、ドレンからの排出水の量と性状を日常的に観察し、傾向を把握することが望ましい。
問53排気ブレーキの作動原理として、最も適切なものはどれか。
- 1排気の熱を利用して発電する
- 2燃料噴射量を増やして負荷を高める
- 3排気タービンを逆回転させる
- 4排気バルブを開いたまま保持して圧縮仕事を捨てる
- ✔排気管路をバルブで絞り、排気行程のポンプ損失を増大させて制動力を得る
解説:【正解】5「排気管路をバルブで絞り、排気行程のポンプ損失を増大させて制動力を得る」
【正解の根拠】排気管路に設けたバルブで流路を絞ると、排気行程における背圧が高まる。ピストンは高い圧力に逆らって排気を押し出すことになり、この余分な仕事(ポンプ損失)が制動力となる。構造が簡単で安価だが、得られる制動力は補助ブレーキの中では比較的小さい。
【回転速度との関係】ポンプ損失は単位時間あたりの排気行程の回数に比例するため、エンジン回転速度が高いほど制動力が大きくなる。したがって下り坂では適切な低速段を選んでエンジン回転速度を保つことが重要である。ニュートラルでは駆動輪と切り離されるため制動力はまったく得られず、法令上も禁止されている。
【他方式との比較】
・圧縮開放ブレーキ:圧縮した空気を上死点付近で排気バルブを開いて放出し、圧縮仕事を回収させない方式。排気ブレーキより大きな制動力が得られる。
・流体式リターダ:作動油をかくはんし、粘性抵抗で制動して熱に変える。摩耗部品がなくフェードしない。
・電磁式リターダ:導体円板に渦電流を生じさせて制動する。
いずれも主制動装置の負担を減らし、長い下り坂でのフェードを防ぐことが目的である。
【実務での着眼点】排気ブレーキが効かない訴えでは、バルブの固着、アクチュエータ(エアシリンダやモータ)の不作動、制御信号(クラッチスイッチ、アクセルスイッチ、車速)の異常を切り分ける。カーボンによるバルブの固着は頻出の原因である。
問54流体式リターダに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔ロータとステータの間の作動油をかくはんし、運動エネルギーを熱に変換して制動力を得る
- 2永久磁石の反発力で制動する
- 3摩擦材の押付けにより制動する
- 4発電した電力をバッテリへ回生する
- 5エンジンの排気を絞って制動する
解説:【正解】1「ロータとステータの間の作動油をかくはんし、運動エネルギーを熱に変換して制動力を得る」
【正解の根拠】流体式リターダは、駆動系に連結したロータが作動油をかくはんし、その粘性抵抗により制動力を発生させる。生じた熱は冷却系で放出する。摩耗部品がないためフェードが生じにくく、長い下り坂で主制動装置の負担を軽減できる。
【補助ブレーキの体系】
・排気ブレーキ:排気管を絞ってポンプ損失を増やす。構造が簡単で安価だが制動力は小さい。
・圧縮開放ブレーキ:上死点付近で排気バルブを開き、圧縮した空気を放出して圧縮仕事を回収させない。排気ブレーキより大きな制動力。
・流体式リターダ:作動油のかくはん抵抗。制動力が大きく、速度に応じて増加する。
・電磁式(渦電流式)リターダ:導体円板に渦電流を生じさせる。応答が速い。
いずれも主制動装置の摩擦材を使わずに減速することで、フェードを防ぐことが目的である。
【なぜフェードを避けるのか】長い下り坂で主制動装置を連続使用すると、摩擦材が過熱してバインダが分解し、摩擦係数が急落する。大型車は運動エネルギーが極めて大きく、いったんフェードすれば制動不能となり、重大事故に直結する。補助ブレーキは、この事態を構造的に避ける手段である。
【運転上の要点】適切な変速段を選んでエンジン回転速度を保ち、補助ブレーキを主体に速度を制御する。主制動装置は補助的に使う。ニュートラル惰行はエンジンブレーキも補助ブレーキも失われ、法令上も禁止されている。
【実務での着眼点】冷却系の能力がリターダの性能を左右する。冷却水量、ラジエータの状態も点検する。
問55大型車の空気圧式サスペンション(エアサスペンション)の特徴として、不適切なものはどれか。
- 1積載量にかかわらず車高を一定に保つ制御が可能である
- ✔エア漏れが生じても車高や乗り心地に影響はない
- 3ばね定数が荷重に応じて変化するため、空車時の乗り心地が良い
- 4荷役時に車高を下げてプラットフォームに合わせることができる
- 5レベリングバルブや車高センサの不良は車高異常の原因となる
解説:【正解】2「エア漏れが生じても車高や乗り心地に影響はない」
【正解の根拠】エアサスは、空気ばねの圧力を調整することで、積載状態にかかわらず車高を一定に保てる。またばね定数を低く設定できるため乗り心地が良く、荷崩れも起きにくい。ただし空気源(コンプレッサ)と制御系が必要で、構造は複雑になる。
【金属ばねとの違い】リーフスプリングやコイルスプリングは、ばね定数が構造で決まっている。積載が増えれば沈み込み、車高が下がる。空気ばねは圧力を変えられるため、荷重に応じて車高を維持できる。
【積載変化への対応】大型車は空車と積車で軸重が数倍変わる。金属ばねでは、積車に合わせれば空車時に硬すぎ、空車に合わせれば積車時に底付きする。エアサスならどちらの状態でも適切な特性が得られる。
【利点】
・車高一定:荷役作業のしやすさ、ヘッドライトの光軸維持、走行安定性。
・低いばね定数:乗り心地が良く、精密機器や生鮮品の輸送に適する。
・ニーリング:バスで乗降口を下げ、乗降を容易にする。
・車高調整:荷台高さをプラットホームに合わせられる。
【整備上の注意】車高センサの調整が車高を決める。センサやリンクの脱着後は調整が必要である。車高が変わればアライメントと光軸も変わる。またジャッキアップ時に制御が誤作動するため、取扱書に従いシステムを停止させる。
【点検項目】ベローズの亀裂と擦れ、配管の漏れ、コンプレッサの作動と昇圧時間、ドライヤ、車高センサ。駐車中の片下がりは漏れを示唆する。
【実務での着眼点】エア系統全体の健全性が前提となる。
問56EBS(電子制御ブレーキシステム)がエアブレーキ車にもたらす利点として、最も適切なものはどれか。
- 1空気配管が完全に不要になる
- 2ABSの機能を代替するため、ABSは不要となる
- ✔電気信号でブレーキ指令を伝えるため応答が速く、軸重に応じた制動力配分やトレーラとの協調制御が可能となる
- 4ブレーキチャンバが不要となる
- 5制動力の左右差を意図的に大きくできる
解説:【正解】3「電気信号でブレーキ指令を伝えるため応答が速く、軸重に応じた制動力配分やトレーラとの協調制御が可能となる」
【正解の根拠】EBSはペダル操作を電気信号として先行して伝え、空気系統をバックアップとして残す構成が一般的である。空気の伝達より電気信号の方が速いため応答遅れが小さくなる。さらに軸重センサの情報を用いた荷重感応型の制動力配分、トラクタとトレーラの協調制御、摩耗の均等化といった、従来の空気圧のみでは困難な制御が可能になる。
【なぜ応答が重要か】大型車では配管が長く、空気の圧縮性もあって制動の立ち上がりに時間がかかる。時速80kmでは0.1秒の遅れが約2.2mの走行距離に相当する。応答の改善は、そのまま制動距離の短縮につながる。
【荷重感応制御】貨物車は空車と積車で軸重が数倍変わる。積車に合わせた配分では空車時に後輪が早期ロックし、空車に合わせれば積車時に制動力が不足する。EBSは軸重を検出して配分を連続的に変えるため、どの積載状態でも適切な配分が得られる。
【トレーラとの協調】トラクタとトレーラの制動タイミングがずれると、トレーラに押される(ジャックナイフの誘発)か、逆に引っ張られる。EBSでは電気信号で連携し、双方の制動を同期させる。連結時の電気接続が重要になる理由でもある。
【ABS・ESCとの関係】EBSはABSやESCの機能を統合する形で構成される。したがって車輪速センサ系の不具合は、これら全体を停止させる。
【実務での着眼点】バックアップの空気系統も健全でなければならない。電気系だけを点検して終わらせない。
自動運転・コネクテッド全50問中 8問を掲載
問57自動運転のレベル定義において、レベル3の説明として最も適切なものはどれか。
- ✔限定領域内でシステムが運転操作を行い、システムの要請時には運転者が対応する(条件付運転自動化)
- 2システムが加減速と操舵の一方のみを支援する
- 3運転者が常に監視義務を負う運転支援である
- 4領域を限定せず、すべての条件で自動運転が可能である
- 5運転者が存在しない完全自動運転である
解説:【正解】1「限定領域内でシステムが運転操作を行い、システムの要請時には運転者が対応する(条件付運転自動化)」
【正解の根拠】レベル3は「条件付運転自動化」と呼ばれ、運行設計領域(ODD)の内側ではシステムが運転操作の全てを担う。ただしシステムが作動継続困難と判断した場合には運転者への引継ぎ要請(テイクオーバーリクエスト)が出され、運転者はこれに応じる義務を負う。
【レベルの境界を正確に押さえる】
・レベル0〜2:運転の主体は人。システムは支援にとどまり、運転者は常時周囲を監視する義務を負う。レベル2は加減速と操舵の双方を支援するが、あくまで「運転支援」である。
・レベル3:ODD内では運転の主体がシステムへ移る。監視義務は緩和されるが、引継ぎ要請に応じられる状態でいる必要がある。
・レベル4:ODD内では引継ぎも不要。応じられなくてもシステムが安全を確保する。
・レベル5:ODDの限定がない。
2と3の間に「運転の主体が人からシステムへ移る」という大きな断絶があることが最重要の理解点である。
【法制度との対応】日本では令和2年4月施行の改正道路運送車両法により「自動運行装置」が保安基準の対象装置となり、走行環境条件を付して認可される仕組みが整えられた。その整備は特定整備(電子制御装置整備)に該当し、認証が必要である。
【顧客への説明】レベル2の車両を「自動運転」と誤解する顧客は多い。監視義務の有無こそが決定的な違いであり、機能名称ではなくレベルの区分で説明することが誤解を防ぐ。
問58道路運送車両法における「自動運行装置」に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1保安基準の対象外である
- ✔令和2年4月から保安基準の対象装置となり、その整備は特定整備(電子制御装置整備)に該当する
- 3装備した車両は検査を受ける必要がない
- 4自動運行装置の整備には認証が不要である
- 5運行設計領域という概念は法令上存在しない
解説:【正解】2「令和2年4月から保安基準の対象装置となり、その整備は特定整備(電子制御装置整備)に該当する」
【正解の根拠】令和2年4月施行の改正道路運送車両法により、自動運行装置が保安基準の対象装置に位置付けられた。認可にあたっては走行環境条件(ODD)が付され、その条件下で安全に機能することが求められる。整備は特定整備のうち電子制御装置整備に該当し、地方運輸局長の認証を受けた事業場でなければ実施できない。
【制度が一体で整備された理由】自動運行装置は、ハードウェアだけでなくソフトウェアの版数によって挙動が変わる。このため以下が併せて制度化されている。
・特定改造等の許可:保安基準に影響する装置のプログラム改変を業として行うには国土交通大臣の許可が必要。
・作動状態記録装置(DSSAD):作動の開始・終了、引継ぎ要請の発出、運転者の対応を記録し、事故時の責任関係の解明に用いる。
・OBD検査:特定DTCの有無を検査用スキャンツールで確認する。令和6年10月から本格運用。
・国連基準:UN-R155(サイバーセキュリティ管理)、UN-R156(ソフトウェアアップデート管理)。
【整備事業者としての実務】エーミングの実施内容、使用したターゲットと方式、作業時のソフトウェア版数を記録に残す。後日の不具合検証や責任関係の整理において、この記録が事業者自身を守る根拠となる。
【関連して押さえる】特定整備の対象は自動運行装置に限らず、運転支援に用いるカメラ・レーダの取外しや機能調整、これらに影響する前面ガラスの交換等を含む。
問59作動状態記録装置(DSSAD)の役割として、最も適切なものはどれか。
- 1走行経路をナビゲーション用に記録する
- 2燃費データを記録する
- ✔自動運行装置の作動状況や運転者への引継ぎ要請の記録を保存し、事故時の責任関係の解明に用いる
- 4エンジンの故障コードのみを記録する
- 5運転者の生体情報を記録する
解説:【正解】3「自動運行装置の作動状況や運転者への引継ぎ要請の記録を保存し、事故時の責任関係の解明に用いる」
【正解の根拠】DSSAD(Data Storage System for Automated Driving)は、自動運行装置の作動開始・終了、運転者への引継ぎ要請の発出、運転者の対応状況などを時刻とともに記録する装置である。事故や不具合の際に、システムと運転者のどちらが運転を担っていたかを客観的に示す。
【なぜ必要になったのか】レベル3では、ODD内ではシステムが運転の主体となり、逸脱時には運転者へ引き継がれる。事故が起きたとき「そのとき運転していたのは誰か」が責任の所在を左右する。人の記憶や証言だけでは事実を確定できないため、客観的な記録が制度上不可欠となった。
【EDRとの違い】
・EDR(イベントデータレコーダ):衝突前後の一定時間について、車速、加速度、アクセル・ブレーキ操作、シートベルト装着状態などを数値で記録する。衝突という事象がトリガとなる。
・DSSAD:自動運行装置の作動状態を継続的に記録する。事故がなくても記録される。
目的も記録対象も異なる装置である。ドライブレコーダ(映像記録、多くは後付け)ともまた別である。
【整備事業者としての関わり】記録は車両所有者の権利に関わる情報であり、整備事業者が独自の判断で取得・提供することは適切でない。正当な手続と所有者の意思を確認する。
【記録の重要性という共通点】整備側でも、実施したエーミングの方式、ソフトウェアの版数、作業日時を記録に残すことが、後日の検証において自らを守る根拠となる。
問60無線によるソフトウェア更新(OTA)に関する制度として、最も適切なものはどれか。
- 1プログラムの改変は自由に行える
- 2更新は整備事業者のみが実施できる
- 3ソフトウェアの更新は保安基準と無関係である
- ✔保安基準に影響する装置のプログラム改変には、国土交通大臣の許可(特定改造等の許可)が必要である
- 5OTAを行った車両は検査を受けられない
解説:【正解】4「保安基準に影響する装置のプログラム改変には、国土交通大臣の許可(特定改造等の許可)が必要である」
【正解の根拠】自動運行装置や運転支援装置は、ソフトウェアの改変によって性能や安全性が変わりうる。このため保安基準適合性に影響する装置のプログラム等改変(特定改造等)を業として行うには、国土交通大臣の許可を受ける必要がある。
【なぜ許可制なのか】従来、車両の性能はハードウェアで決まり、変更には物理的な作業を伴った。ソフトウェア更新では、遠隔から一斉に、しかも目に見えない形で挙動が変わる。誰でも自由に改変できれば、保安基準への適合性が担保できない。そこで改変を行う者に許可を求め、管理体制を確認する仕組みが導入された。
【関連する国連基準】UN-R156はソフトウェアアップデート管理システム(SUMS)の構築を製造業者に求めている。どのバージョンがどの車両に適用されているか、更新が安全に完了したか、失敗時にどう復旧するかといった管理体制が要件となる。UN-R155のサイバーセキュリティ管理システム(CSMS)と対をなす。
【更新中のリスク】書き込み中の電源断や通信断はECUを起動不能にする。OTAでは車両側が条件(バッテリ残量、駐車状態、通信品質)を確認してから実行し、失敗時に復旧できる仕組みを備える。
【整備事業者としての実務】更新の目的と内容、挙動が変わる可能性、所要時間と注意事項を説明し、了解を得てから実施する。実施した版数と日時を記録に残す。制御の味付けや表示が変わることがあり、事前説明がないと顧客が戸惑う。
問61車両のサイバーセキュリティ対策が求められる理由として、最も適切なものはどれか。
- 1通信量を削減するため
- 2燃費を改善するため
- 3車両重量を軽減するため
- 4塗装の耐久性を高めるため
- ✔外部との通信機能をもつ車両では、不正アクセスにより制御が乗っ取られ、走行安全性が損なわれるおそれがあるため
解説:【正解】5「外部との通信機能をもつ車両では、不正アクセスにより制御が乗っ取られ、走行安全性が損なわれるおそれがあるため」
【正解の根拠】テレマティクス、OTA、V2X、スマートフォン連携など外部接続の経路が増えるほど、不正アクセスの入口も増える。制御が乗っ取られれば走行安全性が直接損なわれるため、対策が求められる。
【国際基準による枠組み】国連基準UN-R155はサイバーセキュリティ管理システム(CSMS)の構築を、UN-R156はソフトウェアアップデート管理システム(SUMS)の構築を製造業者に求めている。日本でも新型車から順次適用されている。これは個々の技術対策ではなく、「組織として脅威を管理する仕組みを持つこと」を求める点に特徴がある。
【車両側の具体的対策】
・ゲートウェイECUによる通信の分離:情報系と制御系を切り分け、必要なデータのみ中継する。
・認証:診断ポート経由の書込みや制御に認証を要求する(セキュリティゲートウェイ)。
・メッセージ認証:通信内容の改ざんを検知する。
・セキュアブート:不正なソフトウェアの起動を防ぐ。
【整備事業者に求められること】診断機は車両の制御に書き込む権限を持ち得るため、その認証情報は車両のセキュリティそのものである。アカウントとパスワードを適切に管理し、共有や貸与をしない。ソフトウェアを最新に保つ(脆弱性対策を兼ねる)。認証を回避する機器は法的にも安全上も使用しない。
【顧客への説明】通信機能を持つ車両では、どのデータがどの目的で送信されるかを説明できることが望ましい。
問62運行設計領域(ODD)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔自動運行装置が正常に作動する前提となる道路・環境・交通などの条件範囲をいう
- 2自動車の設計上の最高速度をいう
- 3運転者の運転可能時間をいう
- 4車載ネットワークの通信可能範囲をいう
- 5自動車の生産可能台数をいう
解説:【正解】1「自動運行装置が正常に作動する前提となる道路・環境・交通などの条件範囲をいう」
【正解の根拠】ODD(Operational Design Domain)とは、自動運行装置が安全に機能する前提条件の範囲である。対象道路の種類、車速の範囲、天候、時間帯、車線区分線の有無、工事区間の有無などが具体的に規定される。
【逸脱時の挙動】ODDから外れると判断された場合、システムは運転者へ引継ぎを要請する。運転者が応じない場合は「最小リスク操作」へ移行し、減速して車線内または路肩に停止するなどして危険を最小化する。これは最終手段であり、安全を保証するものではない。
【なぜ整備士が理解すべきか】ODDは「この機能はどこまでできるか」の答えそのものである。顧客への説明において、作動する条件だけでなく作動しない条件を具体的に伝えることが求められる。「高速道路の同一車線内で、区分線が明瞭で、渋滞していて、天候が良好なとき」というように条件を並べて説明すれば、過信による事故を防げる。
【センサ特性との対応】ODDが限定される理由は、センサの物理的限界にある。カメラは逆光・濃霧・降雪・区分線のかすれに弱く、ミリ波レーダは静止物の判別が苦手で、LiDARは降雨・降雪で減衰する。この対応関係を理解しておくと、なぜその条件が除外されているのかを説明できる。
【実務での着眼点】センサ面の汚れ、積雪、着氷、バンパ補修時の金属粉入り塗料の重ね塗りは、ODD内であっても性能を低下させる。
問63ミリ波レーダに用いられる周波数帯として、一般的なものはどれか。
- 12.4GHz帯
- ✔76〜79GHz帯
- 3900MHz帯
- 4125kHz帯
- 5300MHz帯
解説:【正解】2「76〜79GHz帯」
【正解の根拠】車載の前方監視用ミリ波レーダは主に76〜79GHz帯を用いる。かつては24GHz帯も使われたが、現在は分解能に優れる高周波帯へ移行している。
【なぜこの周波数なのか】波長が短いほど小さなアンテナで鋭い指向性が得られ、また距離分解能も高くなる。76〜79GHz帯は波長約4mmで、バンパ内に収まる小型のアンテナで長距離かつ高分解能の検出が可能となる。一方で、これより高い周波数は大気減衰が急増するため実用的でない。
【何が測れるか】送信波と反射波の周波数差から距離を、ドップラー効果による周波数偏移から相対速度を直接求められる。相対速度が直接得られる点がカメラにない強みで、追突の危険度判定に直結する。反面、対象が何であるか(歩行者か標識か)の判別は苦手であり、カメラとのフュージョンが前提となる。
【整備上の重大な注意】電波はバンパを透過して送受信されるため、バンパの材質と塗装が性能に直結する。金属粉を含む塗料の重ね塗り、厚すぎる塗膜、内側への吸音材や補強材の追加、エンブレムの交換はいずれも減衰の原因となる。着氷や着雪、泥の付着でも検知距離が落ちる。
【関連して押さえる】後側方警報用のレーダはリヤバンパ内側に取り付けられることが多く、同様の注意が必要である。脱着後は取付角度の確認と、車種指定のエーミングを行う。
問64LiDARに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1電波の反射により対象を検出する装置である
- 2可視光カメラの一種である
- ✔レーザ光の往復時間から距離を測り、周囲の三次元形状を高分解能で取得する
- 4超音波により近距離の障害物を検出する装置である
- 5GPS信号を受信して位置を測る装置である
解説:【正解】3「レーザ光の往復時間から距離を測り、周囲の三次元形状を高分解能で取得する」
【正解の根拠】LiDARはレーザ光を走査し、反射光が戻るまでの往復時間(Time of Flight)から距離を求めて、周囲を点群として三次元的に取得する装置である。形状の分解能が高く、夜間でも性能が落ちにくい。
【他のセンサとの違い】
・ミリ波レーダ:電波を用いる。距離と相対速度を高精度で測れ、悪天候に比較的強い。ただし分解能が低く、形状は分からない。
・カメラ:受動的に光を捉える。種別判別や色の識別ができるが、距離の推定は間接的で、逆光や夜間に弱い。
・LiDAR:能動的にレーザを照射する。高分解能で形状を捉え、距離も直接測れる。夜間も性能が落ちない。
・超音波ソナー:近距離のみ。安価で駐車支援に用いる。
それぞれ物理原理が異なるため、得意・不得意も異なる。
【LiDARの弱点】濃霧、豪雨、降雪では、水滴や雪粒がレーザを散乱・減衰させるため性能が落ちる。また相対速度を直接測れないため、連続する測定から推定する必要がある。コストも高い。
【整備上の注意】発光部と受光部の汚れ、前面カバーの傷や補修は、そのまま検知性能に直結する。カバーの材質や透過特性が指定されており、社外品や不適切な補修は使えない。取付位置と角度の精度も重要で、脱着後は車種指定のエーミングが必要である。
【実務での着眼点】洗車機のブラシによる傷や、コーティング剤の付着も影響し得る。顧客への取扱いの案内も含めて考えたい。
故障探求全84問中 8問を掲載
問65故障探求の一般的な手順として、最も適切な順序はどれか。
- ✔問診・現象の確認 → 故障コード等の情報収集 → 原因の推定と絞り込み → 点検による確認 → 修理 → 再現・作動確認
- 2部品交換 → 現象確認 → 原因推定 → 再現確認
- 3故障コード消去 → 試乗 → 部品交換 → 納車
- 4原因の推定 → 修理 → 問診 → 現象確認
- 5分解点検 → 問診 → 部品交換 → 納車
解説:【正解】1「問診・現象の確認 → 故障コード等の情報収集 → 原因の推定と絞り込み → 点検による確認 → 修理 → 再現・作動確認」
【正解の根拠】故障探求は「事実の把握」から始める。①問診と現象の確認、②DTCやフリーズフレーム等の情報収集、③系統図に基づく原因の推定と絞り込み、④測定による確認、⑤修理、⑥再現・作動確認、という順序が基本である。
【各段階の意味】
・問診:発生時期、頻度、天候・気温、エンジンの冷熱状態、車速や変速段、警告灯の点灯の仕方を聞き取る。ここで得た発生条件が、後の再現試験の設計図になる。
・情報収集:DTCを先に消去してしまうと、フリーズフレームという貴重な情報を失う。必ず読み出して記録してから作業に入る。
・絞り込み:系統図を見て、二分法で範囲を半分ずつ狭める。闇雲に端から測るより圧倒的に速い。
・測定:仮説を測定で裏付ける。ここを省いて部品を交換するのが「当てもの修理」であり、費用と時間を浪費し真因を残す。
・再現確認:症状が出ないことを、発生条件を再現した状態で自ら確認する。顧客に確認を委ねてはならない。
【思い込みを避ける】経験は探求を速めるが、同時に確証バイアスを生む。測定値が仮説に合わないときこそ仮説を疑うべきで、測定器を疑うのは他の方法で再確認した後にする。複数の仮説を並行して持ち、測定で一つずつ排除していく姿勢が確実である。
【記録の価値】「どの値がいくつだったから何と判断したか」を残せば、再発時に前回との差分を比較でき、組織の資産にもなる。
問66配線の断線が疑われる回路で、電圧降下法により点検を行う場合の記述として、最も適切なものはどれか。
- 1回路に負荷電流を流さない状態で、配線両端の電圧差を測定する
- ✔回路に定格に近い電流を流した状態で、配線両端の電位差を測定し、規定値以下であることを確認する
- 3バッテリを外した状態で配線の抵抗を測定する方が、常に信頼性が高い
- 4電圧降下が大きいほど接触抵抗は小さい
- 5アース側の電圧降下は測定する必要がない
解説:【正解】2「回路に定格に近い電流を流した状態で、配線両端の電位差を測定し、規定値以下であることを確認する」
【正解の根拠】電圧降下法は、実使用に近い負荷電流を流した状態で、配線や接点の両端の電位差を測定する手法である。接触抵抗による不良は、電流が流れて初めて電圧降下として現れる。無負荷や微小電流では正常に見えてしまうため、必ず通電状態で測る。
【なぜ抵抗測定では不十分か】テスタの抵抗レンジが流す電流はごく微小である。たとえば接触部の抵抗が0.1Ωあっても、テスタが流す1mAでは0.1mVの降下しか生じず判別できない。しかし実使用の10Aでは1Vもの降下となり、明確な不具合として現れる。「導通はあるのに動かない」という症例の多くがこれである。
【判定の目安】電源側配線で0.2V以下、アース側で0.1V以下がおおむねの目安とされる。これを超える場合は、配線の断面積不足、素線の一部断線(半断線)、端子の腐食や保持力低下、圧着不良を疑う。
【発熱という観点】接触抵抗があるとP=I²Rで発熱する。0.05Ωの接点に20Aが流れれば20W、これが小さな端子部に集中すれば溶損に至る。電圧降下の測定は、性能の確認であると同時に火災の予防でもある。
【実務での着眼点】アース側の測定を忘れないこと。アース不良は系統をまたぐ不可解な症状(ウインカを出すとメータが揺れる等)の典型的な原因である。測定はバックプローブや専用ピンを使い、テスタのプローブを端子へ直接差し込んで広げないよう注意する。
問67スキャンツールで確認した短期燃料補正(ショートターム)が+20%、長期燃料補正(ロングターム)が+25%であった。考えられる原因として最も適切なものはどれか。
- 1燃料圧力の過大
- 2インジェクタからの燃料漏れ
- ✔吸気系からの二次空気の吸い込み(エア吸い)
- 4エアフロメータが実際より多い空気量を検出している
- 5燃料噴射時間が過大に設定されている
解説:【正解】3「吸気系からの二次空気の吸い込み(エア吸い)」
【正解の根拠】燃料補正値が大きくプラスということは、ECUが「実際の空燃比がリーンだから燃料を増やす」方向に補正している状態である。原因は、空気が余計に入っているか、燃料が足りていないかのいずれかである。エアフロメータで計測した後に吸気系から二次空気が吸い込まれれば、ECUが把握していない空気が加わるためリーンになり、補正がプラスへ振れる。
【短期補正と長期補正の使い分け】短期補正はO2センサやA/Fセンサの信号に即応して増減する値で、瞬間の状態を示す。長期補正は短期補正の平均的な偏りを学習した値で、恒常的なずれを示す。両方が大きくプラスなら、一時的な現象ではなく継続的な要因があると判断できる。
【リーン方向の原因を列挙する】吸気系の二次空気吸い込み(インテークガスケット、PCV配管、ブレーキブースタ配管、EVAP配管)、燃圧不足(燃料ポンプの能力低下、フィルタ詰まり、レギュレータ不良)、インジェクタの詰まり、エアフロメータの過少検出(汚損)、排気漏れによるO2センサへの外気吸い込み。
【誤答選択肢の検討】燃圧過大、インジェクタの燃料漏れ、噴射時間過大はいずれもリッチ方向に作用するため、補正値はマイナスへ振れる。方向が逆である点で除外できる。
【実務での着眼点】アイドル時のみ大きいのか全域なのかで絞り込める。アイドル時(吸気負圧が大きい)に顕著なら吸気漏れ、高負荷時に顕著なら燃料供給能力の不足が疑われる。スモークテスタによる吸気系の漏れ確認が有効である。
問68エンジン警告灯が点灯し「P0301(第1気筒失火検出)」が記憶されていた。効率的な故障探求の初期手順として、最も適切なものはどれか。
- 1直ちに第1気筒の点火コイルとプラグを交換する
- 2エンジンをオーバーホールして各部を点検する
- 3DTCを消去し、しばらく様子を見るよう顧客に伝える
- ✔第1気筒と他気筒の点火コイル・インジェクタを入れ替え、DTCが該当気筒に追随して移動するかを確認する
- 5触媒を交換して排気の流れを改善する
解説:【正解】4「第1気筒と他気筒の点火コイル・インジェクタを入れ替え、DTCが該当気筒に追随して移動するかを確認する」
【正解の根拠】部品を気筒間で入れ替え、DTCが部品側について移動するかを見る。移動すればその部品が原因、同じ気筒に留まればその気筒側(圧縮圧力、バルブ、配線、ECU駆動回路など)が原因と切り分けられる。部品を交換せずに原因系統を特定できるため、推測による交換を避けられる。
【なぜこの手法が優れているか】失火の原因は点火、燃料、圧縮のいずれかに大別される。入れ替え試験は、部品を1つも購入せずに「点火コイルが原因か否か」「インジェクタが原因か否か」を判定できる。判定が付いた後で初めて部品を発注すればよい。これは顧客の費用を抑えるという意味でも、専門職として合理的な進め方である。
【切り分けの続き】部品が原因でないと分かったら、その気筒の圧縮圧力を測定する。低ければオイルを注入して再測定し、回復すればリング/シリンダ、回復しなければバルブやガスケットと絞れる。圧縮も正常なら、ハーネスの導通と電圧降下、ECU側の駆動波形へ進む。
【複数気筒の場合】単一気筒なら固有部品、複数気筒なら共通要因を優先する。吸気漏れ、燃圧不足、点火系の共通電源やアース、EGRの過大導入、バルブタイミングのずれなどが候補となる。どの気筒に出ているかの組み合わせ自体が手がかりになる。
【実務での着眼点】失火は未燃燃料を触媒へ送り込み、溶損させる危険がある。失火DTCがある状態での長時間運転は避け、パワーバランステストも触媒への影響を考えてデータによる判定を優先する。
問69再現性の低い間欠故障の原因を特定するために有効な手法として、最も不適切なものはどれか。
- 1ワイヤハーネスやコネクタを軽く揺すりながら、データストリームの変化を監視する
- 2スキャンツールのフリーズフレームデータから発生条件を推定する
- 3スキャンツールの記録(スナップショット)機能で走行中のデータを収録する
- 4冷却スプレーやヒートガンで部品に温度変化を与えて再現を試みる
- ✔疑わしい部品を順次交換し、症状が出なくなるまで続ける
解説:【正解】5「疑わしい部品を順次交換し、症状が出なくなるまで続ける」
【正解の根拠】間欠故障では、症状が出ていない状態でいくら測定しても異常は見つからない。ハーネスやコネクタの揺動、温度変化の付与、データの長時間記録といった「再現条件を作る」手法が有効である。逆に、症状が出ていないことをもって「異常なし」と結論づけるのは最も避けるべき対応である。
【有効な手法】
・揺動試験:ハーネスやコネクタを揺すり、押し引きしながら、データや電圧、通信のエラーカウンタを監視する。半断線や端子の保持力低下を捉えられる。
・温度の付与:冷却スプレーで冷やす、ヒートガンで温める。熱膨張による接触状態の変化、はんだクラック、半導体の特性変化を再現できる。
・散水:湿度や浸水に依存する症状を再現する。部位を区切って行えば侵入点も特定できる。
・データ記録(ロガー、スナップショット):走行中の値を継続記録し、症状発生時に手動でマークを入れる。後から前後のデータを解析できる。
・ペンディングコード(モード$07)の確認:1回目の検出が記録されている可能性がある。
【問診の重要性】いつ、どんな条件で起きるかを詳しく聴き取れば、再現条件の設計図になる。気温、天候、放置時間、走行状態、頻度を具体的に確認する。
【記録すべき事項】何を確認して異常がなかったかも記録に残す。次回入庫時に同じ確認を繰り返さずに済む。
【顧客への対応】再現できない場合は、その事実と方針を正直に伝え、再発時に速やかに連絡してもらうよう依頼する。
問70OBDⅡのモード(サービス)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔モード$01は現在のデータ(ライブデータ)を読み出す
- 2モード$03はDTCを消去する
- 3モード$04はフリーズフレームデータを読み出す
- 4モード$06は車両識別番号を読み出す
- 5モード$09は排出ガス関連の準備状況(レディネス)を示す
解説:【正解】1「モード$01は現在のデータ(ライブデータ)を読み出す」
【正解の根拠】モード$01は現在のデータ(ライブデータ)を読み出す。各モードの役割を整理しておくと、診断機の機能が何を見ているのかが分かり、活用の幅が広がる。
【モードの一覧】
・$01:現在値(PID指定でセンサ値、燃料補正、負荷率等を読む)
・$02:フリーズフレーム(DTC確定時の運転条件のスナップショット)
・$03:確定DTCの読出し
・$04:DTCと関連データの消去
・$05:O2センサのモニタ試験結果
・$06:特定監視項目の試験結果(測定値と判定閾値)
・$07:未確定(保留・ペンディング)DTC
・$08:車載システムの制御(双方向制御)
・$09:車両情報(VIN、キャリブレーションID等)
・$0A:恒久DTC(消去してもモニタが合格するまで残る)
【実務で特に有用なモード】
・$06:DTCが確定する前の測定値と閾値を数値で比較できる。触媒効率やO2センサ応答が閾値にどれだけ近づいているかが分かり、予兆の把握と予防提案に使える。
・$07:異常を1回検出した段階のコード。間欠故障の手がかりになる。
・$0A:DTCを消去しても、モニタが実際に合格するまで残る。原因を処置せずに消去しただけでは消えないため、検査逃れを防ぐ仕組みでもある。
【DTC確定の考え方】多くの項目で、連続する2回のドライビングサイクルで検出して初めて確定し警告灯が点灯する。1回目は$07に記憶される。
問71エンジン始動不良の故障探求において、まず確認すべき「始動の3要素」として最も適切なものはどれか。
- 1良い冷却・良い潤滑・良い排気
- ✔良い圧縮・良い混合気(燃料)・良い火花(点火)
- 3良い電圧・良い電流・良い抵抗
- 4良いバッテリ・良いタイヤ・良いブレーキ
- 5良い触媒・良いEGR・良いDPF
解説:【正解】2「良い圧縮・良い混合気(燃料)・良い火花(点火)」
【正解の根拠】エンジンが始動するには、良い混合気(燃料と空気)、良い圧縮、良い点火(ディーゼルでは適切な着火条件)の3つが揃う必要がある。始動不良の探求は、この3要素のどれが欠けているかを切り分けることから始まる。
【切り分けの順序】まず症状で大きく分ける。
・セルが回らない:始動系の問題であり、3要素以前である。バッテリ、大電流経路、S端子への電圧、マグネットスイッチ、インタロックを追う。
・セルは回るが始動しない:3要素の切り分けに入る。
【各要素の確認】
・燃料:燃圧の測定(規定圧に達するか、停止後の残圧を保持するか)、インジェクタの作動音や波形、燃料の性状、燃料ポンプの起動。
・空気:吸気系の詰まりや漏れ、スロットルの状態、エアフロメータの値。
・圧縮:圧縮圧力の測定。全気筒が一様に低ければタイミングのずれも疑う。
・点火:火花の有無、二次波形、プラグの状態、点火信号。
・ディーゼルの場合:グロープラグと予熱制御、圧縮による温度上昇、噴射の有無。
【簡易な確認法】プラグを外して火花を確認する、パーツクリーナを吸気系へ少量噴射して初爆があるか見る(初爆があれば燃料系、なければ点火か圧縮)といった手法で、短時間に範囲を絞れる。
【付随して確認する】イモビライザの照合(セキュリティ表示灯の挙動)、DTCとフリーズフレーム、バッテリ電圧の低下によるECUのリセット。
【実務での着眼点】3要素という枠組みを持てば、闇雲な探索を避けられる。
問72オシロスコープで点火二次波形を観測したところ、ある気筒のみ放電電圧(ファイアリングライン)が著しく高く、放電時間が短かった。考えられる原因として最も適切なものはどれか。
- 1点火プラグのギャップ過小
- 2高圧コードの短絡
- ✔点火プラグのギャップ過大または高圧回路の抵抗増大
- 4混合気が過度にリッチ
- 5点火時期の過度な遅角
解説:【正解】3「点火プラグのギャップ過大または高圧回路の抵抗増大」
【正解の根拠】ファイアリングライン(放電開始電圧)の高さは、放電経路の抵抗の大きさを反映する。プラグギャップが大きい、電極が摩耗している、高圧コードの抵抗が増大している、といった場合に高くなる。二次コイルが蓄えるエネルギーは一定なので、高い電圧で放電すればその分早く消費され、スパークライン(放電時間)は短くなる。
【波形の各部が示すもの】
・ファイアリングライン:放電を開始するのに必要だった電圧。混合気の密度、ギャップ、電極形状、回路抵抗で決まる。
・スパークライン:放電が継続している時間と、その間の電圧。長く低いほど良好とされる。
・減衰振動部:放電後に残ったエネルギーがコイルとコンデンサで振動する部分。振動の回数が少なければコイルの劣化を疑う。
【逆のパターン】ファイアリングラインが低く、スパークラインが長い場合は、ギャップ過小、混合気の過度なリッチ、プラグの汚損によるリークが考えられる。ファイアリングラインが極端に高くスパークがほぼ出ない場合は、高圧コードの断線やプラグ内部の断線が疑われる。
【気筒間比較の重要性】絶対値だけでなく、気筒間のばらつきを見ることが診断の要点である。1気筒だけ突出していれば、その気筒の点火系または混合気の状態に問題がある。全気筒が一様に高い場合は、燃圧過大や過給圧過大による筒内圧上昇など、共通要因を疑う。
【実務での着眼点】プラグは走行距離だけでなく、電極の摩耗量とギャップの実測で判断する。
整備機器・計量器全58問中 8問を掲載
問73外側マイクロメータの取扱いに関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1測定前に基準棒等でゼロ点を確認する
- 2測定圧を一定にするためラチェットストップを使用する
- 3測定面は使用前に清浄な布等で拭き取る
- 4測定物と本体の温度をなじませてから測定する
- ✔長期保管時はアンビルとスピンドルを密着させて締め込んでおく
解説:【正解】5「長期保管時はアンビルとスピンドルを密着させて締め込んでおく」
【正解の根拠】アンビルとスピンドルを密着させたまま保管すると、温度変化による膨張・収縮で測定面に応力がかかり、精度低下や測定面の損傷を招く。保管時はわずかにすき間を空け、防錆処理をして専用ケースに収める。
【精度を保つための基本】
・使用前に基準棒やゲージブロックでゼロ点を確認する。ゼロ点が合っていても測定域の途中で器差が生じることがあるため、定期的に複数寸法で確認する。
・ラチェットストップまたはフリクションストップを使い、測定圧を一定にする。手で締め込むと人により数μmの差が出る。
・測定物と本体の温度をなじませる。鋼は1mあたり1℃で約11μm伸びるため、握った手の熱でも影響が出る。
・落下や衝撃を避ける。フレームのわずかな変形が器差になる。
【アッベの原理】マイクロメータは測定軸と目盛(ねじ)の軸が同一線上にあるため、傾きによる誤差が原理的に小さい。一方ノギスはジョウが目盛から離れているため、わずかな傾きが距離に比例した誤差(アッベ誤差)を生む。両者の精度差はこの構造の違いに由来する。
【関連して押さえる】シリンダゲージは比較測定器であり、マイクロメータで基準寸法にゼロセットしてから使う。ゲージを軸方向に振り、指針の振れの「最小値」を読むのが正しい。最短距離が直径だからである。
問74シリンダゲージ(シリンダボアゲージ)を用いてシリンダの摩耗を測定する場合の記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔外側マイクロメータ等で基準寸法にセットしたうえで、その基準との差を読み取る比較測定器である
- 2シリンダゲージ単体で内径の絶対値を直読できる
- 3測定は最上部1か所のみで足りる
- 4ダイヤルの指針が最大を示す位置が正しい内径である
- 5軸方向のみ測定すればよく、円周方向の測定は不要である
解説:【正解】1「外側マイクロメータ等で基準寸法にセットしたうえで、その基準との差を読み取る比較測定器である」
【正解の根拠】シリンダゲージは絶対値を直読できる測定器ではなく、あらかじめ基準寸法にセットしておき、そこからの差を読み取る比較測定器である。外側マイクロメータを規定寸法に合わせ、その間にシリンダゲージを挟んでゼロ点を設定してから測定する。
【正しい読み方】ゲージを挿入したら、測定子を含む面内でゆっくり振る。指針は最小値を通過して戻るので、この最小値が直径に相当する。斜めに当たっていれば実際より大きな値が出るため、必ず振って最小値を読む。この「最小値を読む」という点は、外径測定で最大値を読むのと逆になるので混同しやすい。
【測定箇所の考え方】シリンダの摩耗は一様ではない。上死点付近は燃焼圧が高くリングの往復速度も遅いため摩耗が大きく、また連接棒の傾きによる側圧を受けるクランク軸直角方向がより摩耗する。したがって軸方向に上・中・下の3か所以上、各位置でクランク軸方向とその直角方向の2方向を測る。これにより真円度(同一断面の最大最小差)と円筒度(軸方向のばらつき)が求まる。
【判定と処置】測定値と使用限度を比較し、限度を超えればボーリングとオーバサイズピストンの使用、またはシリンダブロックの交換となる。テーパ摩耗が大きいとリングの追従が悪化し、オイル消費とブローバイの増加として現れる。
【実務での着眼点】測定前にシリンダ内を清掃し、温度をなじませる。ゲージの落下は替えロッドやダイヤルの狂いを招く。
問75トルクレンチの使用に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1グリップの中央部を持ち、締付け方向に対し垂直に力を加える
- ✔緩め作業にも使用してよい
- 3プリセット形は使用後、最小目盛付近まで戻して保管する
- 4指定トルクの20~100%程度の範囲で使用するのが望ましい
- 5定期的に校正(点検)を受ける必要がある
解説:【正解】2「緩め作業にも使用してよい」
【正解の根拠】トルクレンチは締付けトルクを管理するための計測器である。緩め作業に使用すると設計以上の力が加わって内部機構が狂い、精度を失う。緩めにはスピンナハンドルやブレーカバーを用いる。
【なぜトルク管理が必要か】ボルトの本来の役割は「軸力」で部材を締結することであり、トルクはその軸力を得るための手段にすぎない。軸力が不足すれば緩みや漏れ、過大なら塑性変形や座面の陥没、ボルトの破断を招く。しかもトルクの大半はねじ面と座面の摩擦に費やされるため、注油の有無で軸力が大きく変わる。指定がない限り注油しないのは、この摩擦条件を設計時と揃えるためである。
【正しい使い方】グリップの中央を持ち、締付け方向に対し垂直に、じわりと力を加える。プリセット形は設定トルクに達したときの合図(カチッという音や感触)で止め、それ以上引かない。使用後は最小目盛付近まで戻して保管し、ばねのへたりを防ぐ。落下や衝撃も精度低下の原因となる。
【回転角法との違い】トルク法は摩擦の影響で軸力がばらつく。回転角法は規定トルクで仮締めした後、指定角度だけ回してボルトの伸び量そのものを管理するため、ばらつきが小さい。ただし多くは塑性域まで伸ばすためボルトは再使用不可となる。
【実務での着眼点】使用頻度や重要度に応じた点検周期を定め、トルクチェッカで確認して記録を残す。延長アダプタを軸方向に継ぎ足す場合は設定値の補正が必要である。
問76サーキットテスタ(デジタルマルチメータ)の入力抵抗が高いことによる利点として、最も適切なものはどれか。
- 1大電流回路の測定が容易になる
- 2抵抗測定時の測定電流が大きくなる
- ✔被測定回路への影響(測定による電圧変化)が小さく、電子制御回路の測定に適する
- 4測定応答速度が速くなり、瞬間的な電圧変化を捉えられる
- 5測定レンジの自動切替が可能になる
解説:【正解】3「被測定回路への影響(測定による電圧変化)が小さく、電子制御回路の測定に適する」
【正解の根拠】入力抵抗が低いテスタを高抵抗の回路に接続すると、テスタ自体に電流が流れて回路の電圧が変動し、正しい値が得られない(負荷効果)。デジタルマルチメータは入力抵抗が10MΩ程度と高く、この影響が小さいため電子制御回路の測定に適する。
【負荷効果を数値で理解する】センサ回路が1MΩの抵抗を含むとする。入力抵抗20kΩのアナログテスタを当てれば、測定点から見た抵抗が大きく変わり、電圧は本来の値から大きくずれる。入力抵抗10MΩなら、回路への影響は数%以下に収まる。「測定行為が測定対象を変えてしまう」ことを避けるのが高入力抵抗の狙いである。
【逆に負荷をかけたい場面】接触不良の発見では、あえて電流を流す必要がある。高入力抵抗のテスタでは微小電流しか流れないため、接触抵抗があっても電圧が正常に見えてしまう。この場合はテストランプ(負荷)を併用するか、実際に負荷を作動させて電圧降下法で測る。「高入力抵抗が常に良い」わけではない点が重要である。
【デジタルとアナログの使い分け】デジタルは数値の読み取りが正確で入力抵抗も高い。アナログは針の動きで変化の傾向やふらつきを捉えやすい。近年はデジタルにバーグラフ表示を備えて両方の利点を得るものが多い。
【測定できないもの】いずれも一定時間の平均値を表示するため、数ミリ秒の瞬間的な変動や信号の欠落は捉えられない。波形の確認にはオシロスコープが必要である。
【実務での着眼点】測定前にレンジと極性、プローブの接続を確認する。
問77オシロスコープがサーキットテスタに対して優れている点として、最も適切なものはどれか。
- 1直流電圧の絶対値を高精度で読み取れること
- 2抵抗値を直接測定できること
- 3電流を非接触で測定できること
- ✔電圧の時間的変化(波形)を可視化でき、瞬間的なノイズや欠落を捉えられること
- 5内部抵抗が低いこと
解説:【正解】4「電圧の時間的変化(波形)を可視化でき、瞬間的なノイズや欠落を捉えられること」
【正解の根拠】オシロスコープは電圧の時間的な変化を波形として表示できる。テスタは一定時間の平均値を数値で示すだけなので、瞬間的な変動、信号の欠落、立ち上がりの鈍りといった情報は捉えられない。
【テスタでは見えないもの】
・数ミリ秒の瞬間的な電圧降下や欠落。センサ信号の歯抜けなど。
・波形の形そのもの。矩形波が鈍っている、サージが低い、リンギングが多い。
・複数信号の時間的な関係。クランク角とカム角の位相、指令と応答の遅れ。
・周期的なノイズの有無。
これらはいずれも診断に直結する情報である。
【自動車での主な用途】
・点火二次波形:ファイアリングライン、スパークライン、減衰振動から放電状態を読む。
・インジェクタ駆動波形:噴射時間、遮断時のサージ(コイルの層間短絡の判定)。
・CAN波形:レセッシブとドミナントの対称性から異常箇所を推定する。
・クランク角・カム角センサ:歯抜け、振幅、位相。
・オルタネータのリップル:ダイオード不良の判定。
・車輪速センサ:波形の乱れ。
【使い分け】数値が知りたければテスタ、変化の様子が知りたければオシロスコープである。またTrue RMS対応テスタはPWM波形の実効値を正しく測れるが、波形は見えない。目的に応じて選ぶ。
【測定の注意】プローブのアースは測定対象の近くに短く取る。減衰比の設定を本体と一致させる。
【実務での着眼点】間欠故障の揺動試験と組み合わせると効果が大きい。
問78絶縁抵抗計(メガー)をハイブリッド車の高電圧回路の点検に用いる場合の記述として、最も適切なものはどれか。
- 1電子制御ユニットが接続された状態のまま、高い試験電圧を印加して測定する
- 2試験電圧は高いほど正確な判定ができるので、常に最高レンジを用いる
- 3測定は必ずイグニッションON、レディONの状態で行う
- 4絶縁抵抗の値は小さいほど良好である
- ✔測定対象を回路から切り離し、車両の取扱書で指定された試験電圧・判定基準に従って測定する
解説:【正解】5「測定対象を回路から切り離し、車両の取扱書で指定された試験電圧・判定基準に従って測定する」
【正解の根拠】メガーは測定のために直流の高電圧(一般に500Vや1000V)を印加する。ECUや半導体が接続されたまま測定すれば、これらの素子を破壊する。必ずシステムを停止し、サービスプラグを抜いて放電を確認したうえで、測定対象を回路から切り離し、取扱書指定の試験電圧と判定値に従って測定する。
【何を測っているのか】絶縁抵抗とは、本来電流が流れてはいけない経路(導体と車体の間など)の抵抗である。値が大きいほど絶縁が保たれている。高電圧回路はボデーから絶縁されたフローティング回路として構成されており、この絶縁が失われれば感電と地絡の危険が生じる。
【なぜ高電圧で測るのか】低い電圧では絶縁の弱点が現れない。実使用に近い、あるいはそれ以上の電圧を加えて初めて、微細な亀裂や汚損による漏れ電流が測定できる。電圧降下法で負荷をかけて測るのと同じ発想である。
【表面状態の影響】絶縁性能は材料だけでなく表面の状態にも左右される。導電性の粉じん、油分、結露や水分が付着すれば表面漏れ電流が増え、絶縁抵抗が低下する。清掃と乾燥のうえで測定しないと、材料の劣化と表面汚損を区別できない。
【車両側の常時監視】高電圧系にはリーク検出回路が組み込まれ、走行中も絶縁抵抗を監視している。規定値を下回れば警告し、システムメインリレーを遮断する。メガーによる測定は、この診断を裏付ける確定作業として位置づけられる。
【実務での着眼点】冠水車や長期放置車では特に注意を要する。
問79ブレーキテスタによる制動力の測定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔主制動装置の制動力の総和は、審査時における当該車両の重量の50%以上必要である
- 2前後輪ともに左右差は制動力の大きい方の8%以内であればよい
- 3駐車ブレーキの制動力は車両重量の30%以上必要である
- 4測定は必ずエンジン停止状態で行う
- 5制動力はkgf単位でのみ表示しなければならない
解説:【正解】1「主制動装置の制動力の総和は、審査時における当該車両の重量の50%以上必要である」
【正解の根拠】保安基準の細目を定める告示による審査では、主制動装置の制動力の総和は審査時車両重量の50%以上とされている。駐車ブレーキは乗用車で20%以上である。この数値は覚えておきたい基本値である。
【左右差の規定】主制動装置の前軸では、左右の制動力の差が当該軸重の8%以内とされる。「制動力の大きい方の8%」ではなく「軸重の8%」である点に注意が必要で、選択肢でよく入れ替えられる。左右差が大きいと制動時に車両が振られ、危険な挙動となる。
【測定上の条件】ブースタ付き車両ではエンジンを作動させて負圧を確保した状態で測定する。エンジン停止では倍力が働かず、正しい制動力が出ない。またタイヤの空気圧、摩耗状態、ローラ上での空転の有無も測定値に影響する。
【不適合時の切り分け】
・総和不足:パッド・ライニングの摩耗や油脂付着、フルードのエア混入、ブースタの倍力不足、キャリパの固着。
・左右差:片側の固着、引きずり、摩擦材の当たり不良、油脂付着、ホースの詰まり。
・後輪の効き過ぎ:プロポーショニングバルブやEBDの異常。
測定値の出方から原因の方向を推定できる。
【駐車ブレーキの点検】ドラムインディスクではシューすき間の調整とケーブルの引きしろが影響する。EPB付き車両では作動モードの操作が必要になる。
問80サイドスリップテスタに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1キャンバ角そのものを直接測定する装置である
- ✔前輪を直進状態で通過させ、1mあたりの横すべり量を測定する装置で、基準は左右いずれも5mm以内である
- 3後輪のトー角を測定する装置である
- 4測定値が大きいほどアライメントは良好である
- 5測定はハンドルを左右に切りながら行う
解説:【正解】2「前輪を直進状態で通過させ、1mあたりの横すべり量を測定する装置で、基準は左右いずれも5mm以内である」
【正解の根拠】サイドスリップテスタは、前輪を直進状態で低速通過させ、走行1mあたりの横すべり量(mm/m)を測定する装置である。保安基準ではイン・アウトいずれも5mm/m以内と定められている。
【何を測っているのか】測定値はトーとキャンバの複合結果として現れる。トーインは車輪を内向きに、キャンバは車輪を傾けることで転がる方向に影響を与え、その合成として横方向へのすべりが生じる。つまりこの装置は個別の角度を測っているのではなく、「まっすぐ走らせたときに横へ逃げる量」という結果を見ている。
【不適合時の進め方】数値が基準を外れても、原因がアライメントとは限らない。左右の空気圧差、タイヤの偏摩耗やコニシティ、ボールジョイントやブッシュのがた、ハブベアリングのがた、事故による車体変形が背景にあることがある。基本項目を先に確認し、そのうえでアライメントテスタでトーとキャンバを個別に測定して原因を特定する。トーだけを調整して数値を合わせる対応は、原因を残したままの対症療法になりかねない。
【測定上の注意】ハンドルを直進位置に保ち、低速で真っ直ぐ通過させる。ハンドルを保持しすぎても離しすぎても値が変わる。進入速度や助走距離も測定値に影響するため、機器の指定条件を守る。
【関連して押さえる】ステアリングのセンターがずれている場合は、左右のタイロッドを同量ずつ逆方向に調整し、トー総量を保ったままセンターを出す。片側だけの調整はトー総量を変えてしまう。
計算・基礎理論全58問中 8問を掲載
問816Ωと3Ωの抵抗を並列に接続し、これに4Ωの抵抗を直列に接続した。回路全体に12Vを加えたとき、流れる電流として最も近い値はどれか。
- 1約1.0A
- 2約1.5A
- ✔約2.0A
- 4約3.0A
- 5約4.0A
解説:【正解】3「約2.0A」
【正解の根拠】並列部の合成抵抗は積÷和で (6×3)÷(6+3)=2Ω。これに4Ωが直列なので全体は6Ω。電流I=12V÷6Ω=2.0A となる。
【計算の検証方法】並列合成抵抗は、必ず最も小さい抵抗値(この場合3Ω)より小さくなる。計算結果が3Ωを超えていれば、その時点で誤りと分かる。逆に直列合成は必ず最大値より大きくなる。この性質を検算に使う習慣をつけると、桁の取り違えや式の誤りを防げる。
【並列回路の考え方】並列は電流の通り道が増えることを意味する。道が増えれば全体としては流れやすくなるので抵抗は下がる。同じ値の抵抗をn個並列にすれば1/nになる。逆数の和で計算するのは、この「流れやすさ(コンダクタンス)」を足し合わせているからだと理解すると忘れにくい。
【各部の電圧を求める】全体に2.0Aが流れるので、4Ωには2.0×4=8Vがかかり、並列部には2.0×2=4Vがかかる。並列部の6Ωには4÷6≒0.67A、3Ωには4÷3≒1.33Aが流れ、合計2.0Aとなって整合する。このように別の経路で検算できるのが直並列回路の扱い方である。
【実車への応用】ランプを並列に増設すれば全体の抵抗が下がり、幹線に流れる電流が増える。ヒューズ容量と配線の許容電流を超えていないかを確認する必要がある。CANの終端抵抗が約60Ωになるのも、120Ω×2の並列だからである。
問82定格12V・55Wのヘッドランプ1灯に流れる電流として、最も近い値はどれか。
- 1約2.3A
- 2約3.4A
- ✔約4.6A
- 4約5.5A
- 5約6.6A
解説:【正解】3「約4.6A」
【正解の根拠】P=VIより、I=P÷V=55÷12≒4.6A。
【この計算が実務で効く場面】
・ヒューズ容量の妥当性:左右2灯で約9.2A。10Aヒューズでは余裕がなく、15Aが選ばれる理由が分かる。
・配線の断面積:この電流に見合った太さが必要である。
・リレーを使う理由:スイッチに4.6A×2を流すのではなく、リレーで負荷の近くから供給する。
・電圧降下:配線の抵抗が0.2Ωあれば、4.6Aで0.92Vの降下となり、ランプにかかる電圧は11V程度に下がる。光度が目に見えて落ちる。
【電圧降下と光度の関係】白熱電球の光度は電圧の3乗以上に比例するとされる。電圧が10%下がれば光度は3割近く落ちる。「暗い」という訴えの原因が、球ではなく配線の電圧降下にあることは珍しくない。
【LED化との比較】同等の明るさのLEDは十数W程度で済む。消費電流は数分の1になる。この差が、球切れ検出の誤作動やハイフラッシャを生む。
【関連する計算】
・抵抗値:R=V÷I=12÷4.6≒2.6Ω。ただし冷間ではフィラメントの抵抗が低く、点灯直後に大きな突入電流が流れる。
・電力量:2灯を1時間点灯すれば110Wh。発電にはエンジンの動力を使うため、燃料を消費している。
【実務での着眼点】電圧降下の測定は、負荷をかけた状態で行う。無負荷では現れない。
問83基準電圧5Vの回路で、ECU内部の固定抵抗1kΩとサーミスタが直列に接続されている。サーミスタの抵抗値が1.5kΩのとき、ECUが読み取るサーミスタ両端の電圧として最も近い値はどれか。
- 1約1.0V
- 2約2.0V
- 3約2.5V
- ✔約3.0V
- 5約4.0V
解説:【正解】4「約3.0V」
【正解の根拠】直列回路では、各抵抗にかかる電圧は抵抗値の比に応じて分配される。サーミスタ側の電圧=5V×1.5kΩ÷(1.0kΩ+1.5kΩ)=5×0.6=3.0V。
【分圧の考え方】全体の抵抗は2.5kΩなので、流れる電流は5V÷2.5kΩ=2mA。この電流が1.5kΩを流れれば2mA×1.5kΩ=3.0Vとなる。比で解いても電流から解いても同じ結果になり、検算に使える。
【なぜこの回路構成なのか】ECUはアナログの抵抗値を直接読めない。電圧なら内蔵のA/D変換器でデジタル値に変換できる。そこで既知の固定抵抗と直列にして分圧し、その電圧から抵抗値、さらに温度を逆算している。水温、吸気温、油温、燃料残量など多くのセンサがこの構成をとる。
【異常時の電圧を予測する】
・センサ側が断線(抵抗∞):分圧点は基準電圧側へ引き上げられ、約5Vに張り付く。NTCサーミスタでは極端な低温と等価に見える。
・センサ側が短絡(抵抗0):分圧点はアース電位となり約0V。極端な高温として検出される。
この振れる方向を予測できれば、実測値から異常の種類を判別できる。
【A/D変換の分解能】0〜5Vを10ビット(1024段階)で扱えば1段階は約4.9mVである。したがって配線の電圧降下や接触抵抗は、そのまま温度の読み誤りになる。センサ回路のアース側の健全性が重要な理由である。
【実務での着眼点】断線と短絡では現れる症状が正反対になる。
問84シリンダ内径86mm、行程86mmの直列4気筒エンジンの総排気量として、最も近い値はどれか。
- 1約1,500cm³
- 2約1,800cm³
- ✔約2,000cm³
- 4約2,400cm³
- 5約3,000cm³
解説:【正解】3「約2,000cm³」
【正解の根拠】1気筒の行程容積=(π÷4)×D²×L=0.785×86²×86≒499,500mm³≒500cm³。4気筒なので総排気量は約2,000cm³=2.0Lである。
【計算の型】V=(π÷4)×D²×L×気筒数。単位を揃えることが要点で、mmで計算すればmm³になる。1cm³=1,000mm³、1L=1,000cm³である。
【スクエア、ロング、ショート】内径と行程が等しいものをスクエア、行程が長いものをロングストローク、短いものをショートストロークという。この例は86×86でスクエアである。
【設計思想の違い】
・ロングストローク:燃焼室がコンパクトになり、表面積が小さいため冷却損失が減る。熱効率に有利で、低速トルクも出しやすい。ただし平均ピストン速度が高くなるため、高回転化に不利である。
・ショートストローク:ピストン速度が低く抑えられるため高回転化に有利。大きなバルブを配置でき、吸排気効率も高い。ただし燃焼室が扁平になり冷却損失が増える。
近年の低燃費エンジンがロングストローク化しているのは、熱効率を優先しているためである。
【平均ピストン速度】Sm=2LN÷60。行程86mmで6,000min-1なら、2×0.086×6,000÷60=17.2m/s。20m/s前後が量産エンジンの限界の目安である。
【排気量が持つ意味】税制、保険、検査の区分、そして1サイクルで吸える空気量の上限を決める。過給はこの上限を実質的に引き上げる技術である。
【実務での着眼点】ボーリング後の排気量変化も同じ式で計算できる。
問85行程容積500cm³、燃焼室容積50cm³のエンジンの圧縮比として、正しいものはどれか。
- 1約9.0
- 2約10.0
- ✔約11.0
- 4約12.0
- 5約13.0
解説:【正解】3「約11.0」
【正解の根拠】圧縮比ε=(行程容積+燃焼室容積)÷燃焼室容積=(500+50)÷50=11.0。分子を行程容積だけにする誤りが多いので注意する。圧縮比とは「ピストンが下死点にあるときの全容積」と「上死点にあるときの容積」の比である。
【定義を図で押さえる】下死点での容積=行程容積+燃焼室容積、上死点での容積=燃焼室容積。したがって ε=(V+v)÷v = 1+V÷v とも書ける。この形にすると、燃焼室容積が小さいほど圧縮比が急激に上がることが見えやすい。
【面研削の影響を計算する】この例で燃焼室容積が45cm³になれば、(500+45)÷45≒12.1 となり、圧縮比は1.1も上昇する。わずか5cm³の減少でこれだけ変わるため、シリンダヘッドの面研削はノッキング、バルブとピストンの干渉、点火時期の要求変化に直結する。研削には許容限度が定められている。
【実圧縮比との違い】ここで求めたのは幾何圧縮比である。実際には吸気バルブが閉じてから圧縮が始まるため、有効な圧縮比(実圧縮比)はこれより低い。ミラーサイクルは吸気バルブの遅閉じまたは早閉じにより実圧縮比だけを下げ、膨張比は幾何値のまま保つ技術である。
【カーボン堆積との関係】燃焼室にカーボンが堆積すれば燃焼室容積が減り、実質的な圧縮比が上がる。堆積物自体が熱源にもなるため、要求オクタン価が上昇しノッキングを招く。
問86行程86mmのエンジンが6,000min⁻¹で回転しているときの平均ピストン速度として、最も近い値はどれか。
- 1約8.6m/s
- 2約12.9m/s
- ✔約17.2m/s
- 4約21.5m/s
- 5約25.8m/s
解説:【正解】3「約17.2m/s」
【正解の根拠】平均ピストン速度Sm=2LN÷60。L=0.086m、N=6,000min-1として、2×0.086×6,000÷60=17.2m/s。
【なぜ2Lなのか】クランクが1回転する間に、ピストンは上死点から下死点へ、さらに下死点から上死点へと移動する。つまり行程Lの2倍の距離を進む。これに毎秒の回転数(N÷60)を掛ければ、毎秒の移動距離すなわち平均速度になる。
【この値が示すもの】平均ピストン速度は、ピストン、コンロッド、軸受の慣性負荷と摺動面の潤滑条件を代表する指標である。値が大きいほど慣性力が増し、油膜の形成も厳しくなる。量産エンジンでは20m/s前後が機械的な限界の目安とされ、この制約が最高回転速度を決める。
【ロングストロークとショートストロークの違い】同じ排気量でも、行程が長ければ同じ回転速度での平均ピストン速度が高くなる。したがってロングストロークは高回転化に不利だが、燃焼室がコンパクトになり冷却損失が減るため熱効率には有利である。近年の低燃費エンジンがロングストローク化しているのはこのためで、代わりに最高回転速度は抑えられている。
【瞬間速度との違い】平均速度は上死点と下死点で0になる往復運動をならした値である。瞬間の最高速度は行程中央付近で平均の1.6倍程度に達する。慣性力は加速度に比例するため、実際の負荷は上死点付近で最大になる。
【関連する計算】排気量、圧縮比、出力とトルクの関係とあわせて整理しておきたい。
問87あるエンジンが5,000min⁻¹で150kWを出力しているとき、そのときのトルクとして最も近い値はどれか。
- 1約191N·m
- 2約239N·m
- ✔約286N·m
- 4約334N·m
- 5約382N·m
解説:【正解】3「約286N·m」
【正解の根拠】角速度ω=2πN÷60=2π×5,000÷60≒523.6rad/s。トルクT=P÷ω=150,000W÷523.6≒286N·m。
【公式の意味】回転体の出力は「トルク×角速度」である。直線運動における「力×速度」に対応する。単位はW=N·m×rad/sとなり、整合していることを確認できる。角速度への換算(2πN÷60)を省くと答えが大きくずれるため、必ず単位を書きながら計算する。
【簡便式】T[N·m]=9,550×P[kW]÷N[min-1] という形もよく使われる。9,550は60,000÷2πの近似値である。この式なら150kW、5,000min-1で9,550×150÷5,000=286.5N·mと直ちに求まる。
【性能曲線との対応】出力=トルク×回転速度であるから、最大トルク点を過ぎてトルクが下がり始めても、回転速度の増加率がトルクの低下率を上回る間は出力が増え続ける。両者が釣り合う点が最高出力点であり、必然的に最大トルク回転速度より高い側に現れる。
【駆動力への展開】このトルクに総減速比と伝達効率を掛ければ駆動輪トルクとなり、タイヤ動的半径で割れば駆動力が求まる。たとえば総減速比6、効率0.9、動的半径0.3mなら、286×6×0.9÷0.3≒5,150Nとなる。
【モータとの比較】モータは停止付近から最大トルクを発生でき、一定回転速度からは一定出力(トルクは反比例)となる。この違いが、EVで多段変速機を必要としない理由である。
問88変速比1.5、終減速比4.1の車両が、エンジン回転速度3,000min⁻¹で走行している。タイヤの動的半径を0.30mとしたとき、車速として最も近い値はどれか。
- 1約35km/h
- 2約45km/h
- ✔約55km/h
- 4約65km/h
- 5約75km/h
解説:【正解】3「約55km/h」
【正解の根拠】総減速比=1.5×4.1=6.15。車輪回転速度=3,000÷6.15≒487.8min-1=8.13回転/秒。タイヤ1回転の進行距離=2π×0.30≒1.885m。車速=8.13×1.885≒15.3m/s。これに3.6を乗じて約55km/hとなる。
【計算の流れを型として覚える】
①総減速比=変速比×終減速比(間に副変速機があればそれも掛ける)
②車輪回転速度=エンジン回転速度÷総減速比
③1回転の進行距離=2π×動的半径(または π×外径)
④車速[m/s]=毎秒の回転数×1回転の距離
⑤km/hへは3.6倍
この5段階に分解すれば、条件が変わっても同じ手順で解ける。
【単位換算の要点】min-1(毎分回転)を毎秒に直すには60で割る。m/sをkm/hにするには3.6を掛ける(1m/s=3600m/h=3.6km/h)。この2つの換算を間違えると答えが60倍や3.6倍ずれるため、必ず単位を書きながら計算する。
【動的半径という用語】タイヤは荷重で潰れ、また回転時には遠心力で径が変わるため、静的な半径とは異なる。実際の進行距離から逆算した実効的な半径を動的半径という。計算問題では与えられた値を使えばよいが、実車では空気圧や摩耗で変化する。
【実務への応用】タイヤ外径を変更すると同じ車輪回転速度でも実車速が変わる。外径が大きくなれば実速度は速くなり、速度計は低く表示される。ABSやESCの車速推定にも影響する。
法規全78問中 8問を掲載
問89道路運送車両法における自動車検査証の有効期間として、正しいものはどれか。(初回の検査を受ける自家用自動車の場合)
- 1自家用乗用自動車(定員10人以下)は初回2年、以降1年
- ✔自家用乗用自動車(定員10人以下)は初回3年、以降2年
- 3自家用軽乗用自動車は初回2年、以降2年
- 4自家用貨物自動車(車両総重量8t未満)は初回3年、以降2年
- 5事業用乗用自動車は初回2年、以降2年
解説:【正解】2「自家用乗用自動車(定員10人以下)は初回3年、以降2年」
【正解の根拠】自家用乗用自動車(定員10人以下)および自家用軽乗用自動車は、初回3年・以降2年である。
【区分ごとに整理する】
・自家用乗用(定員10人以下)・自家用軽乗用:初回3年、以降2年
・自家用貨物(車両総重量8t未満):初回2年、以降1年
・自家用貨物(車両総重量8t以上):初回から1年
・事業用乗用(タクシー等):1年
・二輪の小型自動車(250cm³超):初回3年、以降2年
・レンタカー(乗用):初回2年、以降1年
使用頻度が高く社会的影響の大きい車ほど期間が短い、という原則で整理すると覚えやすい。
【定期点検との対応】検査と点検は別制度である。自家用乗用車の点検は12か月・24か月、事業用自動車と自家用大型貨物等は3か月・12か月、二輪自動車は12か月である。検査の対象外である軽二輪(250cm³以下)にも12か月点検の義務がある点は誤解されやすい。
【検査の性質】検査はその時点での保安基準適合性を確認する行為であり、次回検査までの安全を保証するものではない。だからこそ使用者に日常点検と定期点検の義務が課されている。「車検を通したのだから当分大丈夫」という誤解を解くことは、予防整備を提案する前提になる。
【関連する期間】点検整備記録簿の保存2年、保安基準適合証・適合標章15日、自動車予備検査証3か月、臨時運行許可5日以内、登録事項の変更申請15日以内。
問90令和2年4月に施行された「特定整備」制度に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1従来の分解整備の範囲が縮小され、電子制御装置整備が除外された
- 2特定整備事業の認証は不要となり、届出のみで足りることとなった
- ✔従来の分解整備に加え、自動運行装置の整備や、運転支援に用いるカメラ・レーダの取外し・調整等を含む電子制御装置整備が対象に加わった
- 4対象は自動運転レベル4以上の車両に限られる
- 5整備主任者の選任義務が廃止された
解説:【正解】3「従来の分解整備に加え、自動運行装置の整備や、運転支援に用いるカメラ・レーダの取外し・調整等を含む電子制御装置整備が対象に加わった」
【正解の根拠】令和2年4月、従来の「分解整備」が「特定整備」に改められ、対象範囲が拡大した。従来の分解整備(原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置、連結装置の取外し等)に加え、電子制御装置整備が新たに対象となった。
【電子制御装置整備の中身】
・自動運行装置の整備
・運転支援に用いるカメラ、レーダ等の取外し、およびこれらの機能の調整(エーミング)を伴う整備
・これらのセンサに影響を及ぼす前面ガラスの交換等
つまり「センサの位置や向きが変わる可能性のある作業」が広く含まれる。バンパの脱着や車体修正も、対象センサが関係すれば該当し得る。
【なぜ制度化されたか】先進安全装備は、わずかな取付角度のずれで遠方の照準が大きく狂う。しかも目視では判別できず警告灯も点灯しない。適切な設備と技能を持たない事業場が施工すれば、装備が正しく機能しないまま路上に出ることになる。この危険を防ぐため、認証という形で施工者の要件を定めた。
【事業者に必要なこと】地方運輸局長の認証、水平な床面と十分な広さの作業場、対応するスキャンツールとターゲット、整備主任者の選任と研修の受講、記録簿の作成と交付。制度施行時には経過措置期間が設けられたが、現在は本則の適用となっている。
【実務での着眼点】自社が認証を受けている範囲を正確に把握し、範囲外の作業は引き受けない判断も必要である。
問91自家用乗用自動車(定員10人以下)の定期点検整備に関する記述として、正しいものはどれか。
- 13か月ごとおよび12か月ごとに行う
- 26か月ごとおよび12か月ごとに行う
- 324か月ごとのみ行う
- ✔12か月ごとおよび24か月ごとに行う
- 5法令上の定期点検義務はない
解説:【正解】4「12か月ごとおよび24か月ごとに行う」
【正解の根拠】自家用乗用自動車(定員10人以下)および自家用軽乗用自動車の定期点検は、12か月ごとと24か月ごとに行うことが定められている。日常点検は「適切な時期に」実施すればよく、1日1回の義務はない。
【車種による違い】
・自家用乗用(定員10人以下)、自家用軽乗用:12か月・24か月。日常点検は適切な時期に。
・事業用自動車、自家用大型貨物(車両総重量8t以上)、レンタカー等:3か月・12か月。日常点検は1日1回、運行開始前。
・自家用貨物(車両総重量8t未満):6か月・12か月。
使用頻度が高く社会的影響の大きい車種ほど、点検の頻度も高い。
【検査との区別】検査(車検)はその時点での保安基準適合性を国が確認する行為であり、点検整備は使用者が安全と環境性能を維持するために行う継続的な行為である。目的も根拠条文も異なる。24か月点検と継続検査の時期が重なることが多いため混同されやすいが、別の制度である。
【義務の主体】いずれも使用者が負う。整備事業者は実施や代行を担う立場である。
【記録簿】点検整備記録簿に記載し、2年間保存する。日常点検については、自家用乗用車では記録簿の記載義務がない。
【顧客への説明】「車検を通したのだから当分大丈夫」という誤解は、この区別が伝わっていないことに起因する。検査は将来の無故障を保証しないこと、だからこそ点検の義務があることを説明する。
【実務での着眼点】12か月点検の実施率は低い。案内と説明が事業者の役割である。
問92点検整備記録簿の保存期間として、正しいものはどれか。
解説:【正解】3「2年間」
【正解の根拠】道路運送車両法第49条により、点検整備記録簿は記載の日から2年間(一部の事業用自動車等では1年間)保存しなければならない。
【記録簿の意義】記録簿には点検の結果、整備の概要、実施年月日、実施した者の氏名または名称などを記載する。これにより整備履歴が車両に紐づいて残り、次回以降の整備の判断材料となる。中古車として流通する際にも、その車両がどう扱われてきたかを示す客観的な情報になる。
【なぜ保存期間が定められるか】点検の実施を後から確認できる状態にしておくことで、制度の実効性が担保される。整備事業者にとっても、実施した内容と判断根拠を残すことが、後日の紛争において自らを守る根拠になる。
【関連する保存期間を整理する】
・点検整備記録簿:2年間(一部1年間)
・産業廃棄物管理票(マニフェスト):5年間
・特定自主検査(リフト等)の記録:3年間
・作業環境測定、特殊健康診断の記録:物質により5年、30年など
・保安基準適合証・適合標章の有効期間:15日間
・自動車予備検査証:3か月
制度ごとに期間が異なるため、混同しないよう整理して覚えたい。
【実務での着眼点】特定整備を行った場合は、記録簿を作成して使用者へ交付し、内容を説明する義務がある。事業者側も控えを保存する。電子的な記録による管理も、要件を満たせば認められる。
問93整備主任者に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1認証を受けた事業場ごとに選任しなければならない
- 2原則として一級または二級の自動車整備士技能検定に合格した者等から選任する
- 3分解整備等の作業について、実施した内容の技術的な管理を行う
- 4選任したときは、地方運輸局長に届け出る必要がある
- ✔整備主任者は、整備した自動車の保安基準適合性を確認する必要はない
解説:【正解】5「整備主任者は、整備した自動車の保安基準適合性を確認する必要はない」
【正解の根拠】整備主任者は、特定整備に係る作業の技術的な管理と、整備した自動車が保安基準に適合するかどうかの確認を行う職責を担う。この確認こそが制度の中核であり、「確認を要しない」とする記述は誤りである。
【選任の要件】認証を受けた事業場ごとに選任し、原則として一級または二級の自動車整備士技能検定に合格した者等から選ぶ。電子制御装置整備を行う事業場では、それに対応した要件が加わる。選任・変更の際は地方運輸局長への届出が必要である。また定期的な研修の受講が求められる。
【自動車検査員との違い】
・整備主任者:認証工場に置かれ、特定整備の技術的管理と保安基準適合性の確認を行う。
・自動車検査員:指定工場(民間車検場)に置かれ、完成検査を行って保安基準適合証を交付する。
指定工場は認証工場であることが前提なので、両者が置かれる。検査の独立性の観点から、それぞれの職責は区別される。
【なぜこの制度があるのか】整備の品質は外から検証しにくい。技術的な管理と適合性の確認を担う責任者を明確に定めることで、事業場としての品質を制度的に担保している。整備士個人の技能に加え、組織としての管理体制が求められているといえる。
【実務での着眼点】記録簿への記載、使用者への交付と説明も、この管理の一環である。認証範囲を超える作業を行わないことも整備主任者が管理すべき事項である。
問94指定自動車整備事業(民間車検場)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔保安基準適合証を交付でき、自動車を運輸支局へ持ち込まずに継続検査を受けることができる
- 2自動車検査証そのものを事業者が交付できる
- 3自動車検査員の選任は任意である
- 4認証を受けていなくても指定を受けることができる
- 5保安基準適合証の有効期間は30日である
解説:【正解】1「保安基準適合証を交付でき、自動車を運輸支局へ持ち込まずに継続検査を受けることができる」
【正解の根拠】指定自動車整備事業者は、自動車検査員が完成検査を行い保安基準適合証を交付することで、現車を運輸支局へ持ち込まずに継続検査を受けられる。ただし自動車検査証を交付するのは国(運輸支局等)であり、事業者ではない。事業者が交付するのはあくまで「保安基準に適合していることの証明」である。
【認証工場との違いを整理する】
・認証工場:特定整備を行える。地方運輸局長の認証が必要。整備主任者を選任する。
・指定工場:認証工場であることを前提に、さらに指定を受けたもの。自動車検査員を選任し、検査設備を備え、完成検査を行って保安基準適合証を交付できる。
つまり指定は認証の上位にあり、認証なしに指定を受けることはできない。
【自動車検査員という職責】整備主任者とは別に選任される。整備した自動車が保安基準に適合するかを検査する立場であり、自らが整備した車両を自ら検査することの独立性が制度上重視される。適合証の交付は国の検査の代行に等しい重い責任を伴う。
【有効期間】保安基準適合証および適合標章の有効期間は交付日から15日間である。適合標章を前面ガラスに掲示することで、検査証と検査標章が届くまでの間の運行が認められる。
【実務での着眼点】虚偽の適合証交付は、認証・指定の取消しという事業の存続に関わる処分の対象となる。検査の独立性を形骸化させない運用が求められる。
問95保安基準における窓ガラスに関する記述として、正しいものはどれか。
- 1後面ガラスにも可視光線透過率70%以上の規定がある
- ✔前面ガラスおよび運転者席側面ガラスの可視光線透過率は70%以上でなければならない
- 3前面ガラスには一切のフィルムを貼付できない
- 4可視光線透過率の基準は50%以上である
- 5運転者席側面ガラスには透過率の規定はない
解説:【正解】2「前面ガラスおよび運転者席側面ガラスの可視光線透過率は70%以上でなければならない」
【正解の根拠】前面ガラス、および運転者席・助手席の側面ガラスは、可視光線透過率が70%以上でなければならない。フィルムを貼る場合も、この基準を満たす必要がある。後席側面と後面には、この透過率の規定は適用されない。
【なぜ前席周りだけ厳しいのか】運転者が外部を視認するための視界と、外部から運転者の状態を確認できることの双方が求められる。夜間や薄暮時に歩行者を認識できるだけの明るさが必要であり、また対向車や歩行者が運転者のアイコンタクトを取れることも安全に寄与する。後席側面や後面は、これらの要求が相対的に低い。
【測定】可視光線透過率測定器で実測する。純正ガラス自体が透過率を持つため、フィルムを貼れば元の透過率にフィルムの透過率が掛け合わされる。純正が80%のガラスに透過率90%のフィルムを貼れば72%となり、余裕は小さい。「透明フィルムだから大丈夫」とは限らない。
【併せて確認する事項】
・前面ガラスへの貼付が認められるもの:検査標章、点検ステッカー、保険標章、ETCアンテナ、ドライブレコーダなど、規定の位置と範囲に限られる。
・整備上必要な表示(オイル交換ステッカー等)にも位置の制限がある。
・ひび割れや損傷が視界を妨げていないこと。飛石傷も、位置と大きさによって不適合となる。
【カメラとの関係】前方監視カメラを備える車両では、ガラスの光学特性がカメラの認識に影響する。交換時は指定の仕様のガラスを用い、エーミングを実施する。
【実務での着眼点】フィルム施工の依頼では、施工後の実測を前提に説明する。
問96保安基準における方向指示器の点滅回数として、正しいものはどれか。
- 1毎分30回以上60回以下
- 2毎分90回以上150回以下
- ✔毎分60回以上120回以下
- 4毎分120回以上180回以下
- 5規定はない
解説:【正解】3「毎分60回以上120回以下」
【正解の根拠】方向指示器は毎分60回以上120回以下の一定の周期で点滅するものでなければならない。速すぎても遅すぎても不適合である。
【なぜ範囲が定められるのか】遅すぎれば周囲が意図を認識するのに時間がかかり、速すぎれば故障を示す合図(ハイフラッシャ)と紛らわしくなる。点滅は「注意を引きつける」ための表示であり、人間が確実に認識できる周波数の範囲として定められている。
【ハイフラッシャが生じる仕組み】多くの車両は灯火回路の電流値や電圧降下から球切れを検出している。白熱球(21W程度)からLED(数W)へ交換すると消費電流が大幅に減り、システムが球切れと誤判定して点滅を速める。これは基準不適合であり、車検にも通らない。
【対処の方法と注意】車種に適合するLED対応品を使う、正規の方法で抵抗を付加する、LED対応フラッシャリレーへ交換するといった手段がある。抵抗を付加する場合は減った分の電力を熱として捨てるため相当な発熱を伴い、取付位置と固定方法を誤れば樹脂の溶損や火災につながる。
【併せて確認すべき適合性】点滅速度だけでなく、光度、光色(橙色)、視認角度、左右対称の取付位置、他の灯火との識別性のすべてが基準を満たす必要がある。
【関連する数値】警音器は前方7mで87dB以上112dB以下、番号灯は後方20m、尾灯・制動灯は後方300m、後部反射器は後方150m。灯火関係の距離と数値はまとめて整理して覚えたい。
環境・安全全50問中 8問を掲載
問97自動車の排出ガスに含まれる有害成分とその生成要因の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
- 1HC:高温高圧下での窒素と酸素の反応
- 2NOx:燃料の未燃焼分
- 3PM:完全燃焼した結果の生成物
- ✔CO:酸素不足による不完全燃焼
- 5CO2:法令上の有害排出ガス成分
解説:【正解】4「CO:酸素不足による不完全燃焼」
【正解の根拠】CO(一酸化炭素)は酸素不足による不完全燃焼、HC(炭化水素)は未燃または燃え残りの燃料、NOx(窒素酸化物)は高温かつ酸素が存在する条件での窒素と酸素の反応、PM(粒子状物質)は酸素不足の高温域での燃料の熱分解により生じる。
【生成の条件を対比する】
・CO:酸素が足りない。リッチ側で増える。
・HC:燃え残り。失火、壁面での消炎、バルブオーバーラップによる吹き抜け、蒸発ガス。
・NOx:温度が高く酸素がある。リーン側かつ高温で増える。
・PM:酸素が足りず温度が高い。ディーゼルの噴霧内部で生じやすい。
COとNOxは、酸素の量に対して逆の条件で増える。この関係が、後処理装置の設計と空燃比制御の難しさの根本にある。
【NOxとPMのトレードオフ】ディーゼルでは、EGRを増やせば燃焼温度が下がってNOxは減るが、酸素濃度も下がるためPMが増える。逆も成り立つ。燃焼側だけでは両立できないため、DPFと尿素SCRという後処理を組み合わせる。
【三元触媒のウィンドウ】ガソリンでは、COとHCの酸化とNOxの還元を同時に進める必要がある。前者は酸素が要り、後者は酸素があると困る。両立するのは理論空燃比のごく狭い範囲だけである。空燃比フィードバック制御が不可欠な理由である。
【その他の成分】硫黄酸化物は燃料中の硫黄分に由来し、燃料の低硫黄化で対応する。二酸化炭素は有害成分ではないが温室効果ガスであり、燃費改善が対策となる。
【実務での着眼点】測定値の傾向から、燃焼状態と後処理の状態が推定できる。
問98三元触媒が最も高い浄化率を示す条件として、最も適切なものはどれか。
- 1空燃比が18以上のリーン状態にあるとき
- 2空燃比が10以下のリッチ状態にあるとき
- 3触媒温度が100℃以下のとき
- 4排気中の酸素濃度が高いとき
- ✔空燃比が理論空燃比(λ=1)の極めて狭い範囲にあるとき
解説:【正解】5「空燃比が理論空燃比(λ=1)の極めて狭い範囲にあるとき」
【正解の根拠】三元触媒はCOとHCの「酸化」、NOxの「還元」という逆向きの反応を同時に進行させる。酸化には酸素が必要で、還元には酸素が少ない方がよい。この相反する条件が両立するのが理論空燃比のごく狭い範囲(ウィンドウ)であり、ここを外れるとどちらかの浄化率が急落する。
【リーン側とリッチ側で何が起きるか】リーン側では排気に酸素が多く、COとHCの酸化には有利だがNOxの還元率が急落する。リッチ側では酸素不足によりCOとHCの浄化率が落ちる。したがって空燃比フィードバック制御によりλ=1の近傍を維持することが、触媒が機能するための絶対条件になる。
【酸素吸蔵能力(OSC)】触媒に含まれるセリア等は、酸素が余っているときに吸蔵し、不足したときに放出する働きを持つ。この緩衝作用により、空燃比が瞬間的に振れても触媒内はλ=1に保たれる。この能力の低下が触媒劣化の実体であり、下流O2センサの出力が上流に追随して振れ始めることで検出される(P0420等)。
【なぜリーンバーンで使えないか】成層リーン燃焼や直噴のリーン運転では排気が常時酸素過多となり、三元触媒のNOx還元機能が働かない。このためNOx吸蔵還元触媒などの追加装置が必要となる。ディーゼルも常時リーンであるため、尿素SCRという別の手段でNOxを還元する。
【実務での着眼点】触媒の劣化DTCがあっても、失火、燃料系の異常、排気漏れによる誤検出が背景にあることが多い。高価な触媒を交換する前にこれらを除外する。
問99ブローバイガス還元装置(PCV)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔ブローバイガスを吸気系へ導き、再燃焼させる装置である
- 2ブローバイガスを大気に放出する装置である
- 3燃料タンクの蒸発ガスを処理する装置である
- 4排気ガスの一部を吸気へ再循環させる装置である
- 5排気中のPMを捕集する装置である
解説:【正解】1「ブローバイガスを吸気系へ導き、再燃焼させる装置である」
【正解の根拠】ブローバイガスとは、ピストンリングをすり抜けてクランクケース内へ漏れた未燃混合気と燃焼ガスである。HCを多量に含むため、そのまま大気へ放出すれば大きな汚染源となる。PCVバルブを介して吸気系へ導き、再び燃焼させることで排出を防いでいる。
【PCVバルブの働き】単なる配管ではなく、吸気負圧に応じて流量を調整する弁である。アイドリング時は負圧が大きいため流量を絞り、混合気が薄くなりすぎるのを防ぐ。高負荷時は負圧が小さくなるため流量が増える。この可変特性により、運転条件によらず適切な換気量を確保している。
【詰まったときの症状】クランクケース内圧が上昇して逃げ場を失い、シールやガスケットからのオイル漏れ、オイルレベルゲージの押し上げ、オイル消費の増加を招く。逆に開き固着や配管の抜けでは、制御されない二次空気を吸い込むためアイドリング不調やリーン方向のDTCとなる。
【他の装置との区別】蒸発ガス排出抑制装置(EVAP)は燃料タンクから発生する蒸発ガスをキャニスタの活性炭に吸着し、適切な運転条件でパージして燃焼させる装置である。EGRは排気を吸気へ再循環させてNOxを低減する装置。PCVはクランクケースが対象であり、それぞれ発生源も目的も異なる。
【実務での着眼点】直噴エンジンでは、ブローバイに含まれるオイルミストが吸気バルブ傘裏に堆積してデポジットの主因となる。燃料による洗浄作用がないためである。
問100蒸発ガス排出抑制装置(EVAPシステム)に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1キャニスタ内の活性炭が燃料蒸発ガス(HC)を吸着する
- ✔パージは触媒暖機前のアイドリング時に最も積極的に行われる
- 3パージ制御弁を開き、吸気負圧により吸着したHCを吸気系へ導く(パージ)
- 4システムの漏れはOBDにより監視され、DTCが設定される
- 5燃料キャップの締め忘れが漏れ検出の要因となることがある
解説:【正解】2「パージは触媒暖機前のアイドリング時に最も積極的に行われる」
【正解の根拠】パージを行うと、キャニスタに吸着されていた濃いHCが吸気へ流入して空燃比が乱れる。触媒暖機前のアイドリングのように燃焼が不安定で、かつ触媒が浄化能力を持たない条件では、パージを禁止または制限するのが一般的である。冷却水温、負荷、回転速度などの条件が整った運転域で実施される。
【システムの構成と流れ】燃料タンクで発生した蒸発ガスは配管を通ってキャニスタへ導かれ、内部の活性炭に吸着される。エンジンが適切な運転状態になるとECUがパージ制御弁を開き、吸気負圧により活性炭からHCが脱離して吸気系へ吸い込まれ、燃焼室で処理される。同時に大気開放弁から新気が入り、活性炭を再生する。
【OBDによる漏れ監視】EVAPの漏れ監視はOBDⅡの必須項目である。パージ弁とベントバルブを閉じて系統を密閉し、吸気負圧を導入するか専用ポンプで加圧して圧力変化を監視する。規定より速く圧力が変化すれば漏れと判定する。極めて小さな漏れ(0.5mm相当)まで検出する厳しい基準が設けられている。
【実務での着眼点】最も多い原因は燃料キャップの締め忘れやシールの劣化である。次いで配管の劣化、キャニスタの割れ、各弁の固着が挙げられる。漏れ箇所の特定にはスモークテスタが有効である。パージ弁の開き固着はアイドル不調やリッチ方向の補正として現れることもある。
問101カーエアコン冷媒R1234yfに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1R134aと同一の物性で、相互に混合して使用できる
- 2オゾン層破壊係数が高いため使用が制限されている
- ✔地球温暖化係数(GWP)がR134aより大幅に低く、微燃性を有する
- 4不燃性であり、取扱い上の注意はR134aと全く同じである
- 5自然冷媒であり、フロン排出抑制法の対象外である
解説:【正解】3「地球温暖化係数(GWP)がR134aより大幅に低く、微燃性を有する」
【正解の根拠】R1234yfは地球温暖化係数(GWP)が1未満と極めて低く、R134a(GWP約1,400)に代わる冷媒として導入された。ただし微燃性を持つため、取扱いと機器に注意が必要である。
【なぜ切り替わったのか】R134aはオゾン層を破壊しないため特定フロンから代替されたが、温室効果が二酸化炭素の千倍以上ある。欧州の規制を契機に、GWPの低い冷媒への移行が進んだ。R1234yfは大気中で短時間に分解されるため、GWPが極めて低い。
【微燃性という特性】R134aは不燃だが、R1234yfは条件によっては燃焼する(微燃性、A2L区分)。ただし着火には一定の条件が必要で、通常の使用で容易に燃えるものではない。それでも、火気の近くでの作業、密閉空間での大量漏えいには注意する。
【機器の区別】
・回収機、真空ポンプ、マニホールドゲージは冷媒種ごとに専用のものを使う。混合すれば性能が出ず、また回収した冷媒の再生もできなくなる。
・接続口の形状が異なり、誤接続を防ぐ構造になっている(フールプルーフ)。
・適合するオイルも異なる場合がある。
【法令上の扱い】フロン排出抑制法の対象であり、みだりな大気放出は禁止される。量の多寡を問わない。回収と適正処理が義務である。
【今後の動向】さらにGWPの低い冷媒や、二酸化炭素(R744)を用いる方式も研究・実用化されている。
【実務での着眼点】車両がどの冷媒を使用しているかを必ず確認してから作業する。
問102整備作業に伴う廃棄物の取扱いとして、不適切なものはどれか。
- 1廃エンジンオイルは産業廃棄物(廃油)として、許可を受けた業者に処理を委託する
- 2廃バッテリは鉛および電解液を含むため、適正処理と有価物としての引渡しを行う
- 3廃タイヤは産業廃棄物であり、野焼きは禁止されている
- ✔少量であれば廃油を下水道へ流しても差し支えない
- 5産業廃棄物の処理を委託する際はマニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付する
解説:【正解】4「少量であれば廃油を下水道へ流しても差し支えない」
【正解の根拠】廃油の下水道等への排出は水質汚濁防止法および下水道法に違反し、量の多寡を問わず禁止される。産業廃棄物は排出事業者に処理責任があり、許可業者への委託とマニフェスト(産業廃棄物管理票)による処理状況の確認・保存(5年間)が義務付けられている。
【排出事業者責任という原則】廃棄物を処理業者に引き渡しても、排出した事業者の責任は消えない。委託先が不適正な処理をすれば、排出事業者も措置命令の対象となり得る。だからこそ、許可の範囲を確認し、マニフェストの返送により最終処分まで確認する仕組みがある。
【整備工場の主な産業廃棄物】
・廃油(エンジンオイル、ATF、ギヤオイル、洗浄油)
・廃液(不凍液、ブレーキフルード、洗浄液)
・廃タイヤ、廃バッテリ、廃触媒
・金属くず、廃プラスチック、汚泥(油水分離槽)
・使用済ウエス、廃エアクリーナ
【特別管理産業廃棄物】引火点70℃未満の廃油(廃シンナー、ブレーキクリーナ等)、強酸(バッテリ電解液)、強アルカリの廃液などが該当し得る。通常の産業廃棄物より厳格な保管基準と委託基準が適用され、特別管理産業廃棄物管理責任者の設置も求められる。
【保管の基準】囲いを設け、掲示板(種類、管理者、連絡先等)を掲げ、飛散・流出・地下浸透・悪臭を防ぐ措置を講じる。油類は受け皿や堰を設けて流出を防ぐ。
【実務での着眼点】分別は費用削減と再資源化の両面で有効である。
問103整備作業における労働安全に関する記述として、不適切なものはどれか。
- 1エンジン運転中の作業では、排気ガスを屋外へ排出する設備を使用する
- 2ジャッキアップ後は必ずリジッドラック(ウマ)を掛けてから車体下へ入る
- 3回転部近くの作業では、手袋や袖口の巻き込みに注意する
- 4研削作業では保護めがねを着用する
- ✔バッテリの充電作業は密閉された狭い場所で行うと安全である
解説:【正解】5「バッテリの充電作業は密閉された狭い場所で行うと安全である」
【正解の根拠】鉛蓄電池の充電時には水の電気分解により水素ガスが発生する。水素は可燃範囲が広く(空気中で約4〜75%)、最小着火エネルギーも極めて小さいため、換気の悪い狭い場所では爆発下限界に達し、わずかな火花で爆発する危険がある。充電は換気の良い場所で行い、火気を厳禁とする。
【具体的な注意事項】
・通電中にクリップを着脱しない。接続・切断の瞬間の火花が着火源となる。接続してから電源を入れ、電源を切ってから外す。
・電解液は希硫酸である。保護めがねと耐酸性の保護手袋を着用し、皮膚や眼に付着した場合は直ちに大量の水で洗い流す。
・充電中は液温の上昇に注意する。過大な電流は液温上昇とガス発生を促進する。
・MFバッテリでも過充電時にはガスが発生する。密閉だから安全という理解は誤りである。
【他の作業における基本】
・ジャッキアップ後は必ずリジッドラックを掛けてから車体下へ入る。ジャッキは持ち上げる道具であり、支える道具ではない。
・エンジン運転中は排気ガス排出装置を接続する。一酸化炭素は無色無臭で、気付いたときには手遅れになる。
・回転部近くでは手袋や袖口の巻き込みに注意する。作業によっては手袋を着用しない方が安全な場合もある。
・研削作業では保護めがねを着用する。
【リスクアセスメントの視点】保護具は最後の手段であり、まず危険源の除去や隔離を検討する。
問104有機溶剤を用いる作業(塗装、洗浄等)に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ✔有機溶剤中毒予防規則に基づき、作業場の換気、保護具の使用、作業主任者の選任等が必要となる
- 2防じんマスクを着用すれば有機溶剤の吸入は防げる
- 3屋内であれば局所排気装置は不要である
- 4有機溶剤は皮膚から吸収されることはない
- 5作業環境測定は義務付けられていない
解説:【正解】1「有機溶剤中毒予防規則に基づき、作業場の換気、保護具の使用、作業主任者の選任等が必要となる」
【正解の根拠】有機溶剤中毒予防規則により、第1種・第2種有機溶剤を用いる屋内作業では、局所排気装置等の設置、有機溶剤作業主任者の選任、6か月以内ごとの作業環境測定と特殊健康診断が求められる。防じんマスクではガスを捕集できないため、有機ガス用防毒マスクを使用する。
【マスクの選択を誤らない】防じんマスクは粒子(塗料ミスト、粉じん、石綿)をフィルタで捕集する。有機溶剤の蒸気は分子であり、フィルタでは捕らえられない。活性炭などの吸収缶を備えた防毒マスクが必要である。塗装作業ではミストと蒸気の両方が発生するため、防じん機能を併せ持つ吸収缶を用いる。吸収缶には破過(吸着能力の限界)があり、使用時間の管理と交換が必要である。
【経皮吸収という経路】有機溶剤は皮膚からも吸収される。手が汚れたときに溶剤で洗う、素手でシンナーを扱うといった行為は危険である。不浸透性の保護手袋(溶剤の種類に適合したもの)を用いる。軍手や布手袋は溶剤を保持して長時間皮膚に接触させるため、かえって有害である。
【対策の優先順位】まず有害性の低い代替物(水性塗料等)への転換を検討し、次に局所排気や塗装ブースによる工学的対策、それから作業手順や時間管理、最後に保護具という順序で考える。保護具は最後の砦である。
【実務での着眼点】区分と規制の対象は法改正で見直されている。SDSの確認を出発点とする。
整備管理・顧客対応全50問中 8問を掲載
問105顧客への見積り・説明に関する対応として、最も適切なものはどれか。
- 1追加作業は整備士の判断で進め、引渡し時にまとめて請求する
- 2専門用語を多用し、技術的に高度であることを強調する
- ✔作業内容と概算費用を事前に説明し、追加作業が必要になった場合は都度承諾を得る
- 4不具合の原因が特定できない場合でも、断定的に説明して安心させる
- 5交換した部品は速やかに廃棄し、顧客には見せない
解説:【正解】3「作業内容と概算費用を事前に説明し、追加作業が必要になった場合は都度承諾を得る」
【正解の根拠】整備は無形性が高く、顧客が内容を検証しにくいサービスである。だからこそ事前の説明と同意(インフォームド・コンセント)が信頼の基礎になる。作業内容と概算費用を事前に説明し、分解して初めて分かる追加作業が生じた場合は、いったん作業を止めて必要性・費用・納期への影響を説明し、承諾を得てから再開する。
【なぜ無断で進めてはいけないか】見積りは顧客との合意の基礎である。範囲を超える作業は、金額の多寡にかかわらず新たな合意を要する。無断で進めれば費用をめぐる紛争になりやすく、無償で実施する場合でも作業内容が変わる以上は説明が必要である。連絡がつかない場合は作業を保留し、記録を残して判断を仰ぐ。
【説明を有効にする工夫】専門用語を避け、交換部品の現物や写真、測定値を示す。摩耗部品なら現在値と限度値を対比させ、これまでの摩耗ペースから次に必要となる時期を示す。緊急度を「今回必要」「次回車検まで持つ」「経過観察」に区分すれば、顧客は限られた予算の中で優先順位をつけられる。
【断定を避けるべき場面】原因が特定できていない段階では、その事実と次の切り分け方針を正直に伝える。「たぶんこれでしょう」と断定して外れれば、信頼は大きく損なわれる。分からないことを分からないと言えることも、専門職の誠実さである。
【記録との関係】説明した内容と顧客の判断を記録に残しておけば、後日の認識の食い違いを防げる。実施しなかった項目についても、説明した事実を残しておくことが双方を守る。
問1061級自動車整備士に求められる役割として、最も適切でないものはどれか。
- 1高度な電子制御装置やハイブリッド車の診断・整備
- 2後進の指導・育成および作業品質の管理
- 3環境保全と安全確保に関する知識に基づく助言
- ✔車両の販売価格を決定し、値引き交渉を行うこと
- 5顧客への技術的説明とアドバイス
解説:【正解】4「車両の販売価格を決定し、値引き交渉を行うこと」
【正解の根拠】1級自動車整備士に期待されるのは、高度な診断技術に加え、後進の指導・育成、環境保全と安全確保に関する見識、顧客への技術的な説明である。車両の販売価格の決定や値引き交渉は営業上の業務であり、整備士資格に基づく役割ではない。
【なぜこれらが求められるのか】自動車技術は電子制御、ハイブリッド、先進安全装備へと急速に高度化し、経験と勘だけでは対応できない領域が広がった。系統図を読み、測定で仮説を検証し、論理的に原因へ到達する技能が不可欠になっている。同時に、その技能を組織へ広げる指導者としての役割も期待される。
【口述試験が課される意味】1級の試験には口述試験が含まれる。これは、正しい知識を持っているかだけでなく、状況を判断し、それを他者に説明できるかを問うものである。顧客に対して装置の限界や整備の必要性を正確に伝える力、後進に対して手順の根拠と危険要因を伝える力が、実務上の中核だからである。
【環境と安全への見識】排出ガス低減装置や冷媒の適正な取扱い、廃棄物の適正処理、高電圧作業の安全管理、労働災害の予防。これらは法令遵守にとどまらず、社会に対する専門職としての責務である。顧客が体感できない部分だからこそ、専門職の判断が問われる。
【実務での姿勢】自社で対応できない作業を無理に引き受けず、適切な引継ぎ先を案内することも役割の一つである。
問107走行中にエンジンが過熱(オーバヒート)した場合の応急処置として、最も適切なものはどれか。
- 1直ちにラジエータキャップを開けて冷却水を補給する
- 2エンジンを即座に停止し、直ちにキャップを外す
- 3水温計が下がるまで高速走行を続ける
- 4エアコンを最強の冷房にして走行を続ける
- ✔安全な場所に停車し、エンジンをアイドリングさせて温度低下を待ち、十分に冷えてから点検する
解説:【正解】5「安全な場所に停車し、エンジンをアイドリングさせて温度低下を待ち、十分に冷えてから点検する」
【正解の根拠】安全な場所に停車させ、エンジンを止めるか、状況によりアイドリングを続けて冷却を待つ。高温のラジエータキャップを開けてはならない。加圧された冷却水が沸騰状態にあり、キャップを緩めた瞬間に沸騰して熱湯と蒸気が噴き出し、重度の熱傷を負う。
【なぜ噴き出すのか】冷却系は加圧されており、その圧力により沸点が120℃前後まで上がっている。キャップを開けて大気圧に戻せば、その温度は沸点を超えることになり、一気に沸騰する。体積が急激に膨張して噴出する。
【手順の考え方】
・安全な場所へ停車する。走行を続ければ焼付きに至る。
・エアコンを切り、ヒータを最大にすれば、ヒータコアが補助的な放熱器として働く(応急的な手段)。
・冷却水が残っており循環しているなら、アイドリングを続けた方が冷却が進む場合がある。逆に冷却水が失われている、あるいはポンプやベルトが機能していないなら、停止させる。
・キャップは十分に冷えてから、布を当てて少しずつ緩める。
・水を補給する場合も、エンジンが高温のうちに冷水を入れれば急冷による割れを招く。
【原因の推定】冷却水漏れ、サーモスタットの閉じ固着、電動ファンの不作動、ラジエータの目詰まり、ウォータポンプやベルトの不良、ヘッドガスケットの抜け。
【損傷の可能性】オーバヒート後は、ヘッドの歪み、ガスケットの損傷、ピストンやシリンダの損傷を確認する。「冷えたら動いた」で済ませない。
【実務での着眼点】電話で相談を受けた場合、まず安全な停車と、キャップを開けないことを伝える。
問108ブースタケーブルを用いた始動(ジャンプスタート)の手順として、最も適切なものはどれか。
- ✔赤を故障車の+、赤を救援車の+、黒を救援車の-、黒を故障車のエンジンブロック等の金属部
- 2黒を故障車の+、赤を救援車の-、赤を故障車の-、黒を救援車の+
- 3赤を故障車の-、黒を救援車の+の順に接続する
- 4接続順序は問わないが、必ずエンジンを停止して行う
- 5最後に黒を故障車のバッテリ-端子に直接接続する
解説:【正解】1「赤を故障車の+、赤を救援車の+、黒を救援車の-、黒を故障車のエンジンブロック等の金属部」
【正解の根拠】接続の順序は、赤を故障車の+、赤を救援車の+、黒を救援車の-、最後に黒を故障車のエンジンブロック等の金属部とする。最後の接続点をバッテリの-端子から離れた車体金属部にするのは、接続時に生じる火花がバッテリから発生した水素ガスに引火するのを避けるためである。取外しは接続と逆順に行う。
【なぜ火花が出るのか】最後の接続の瞬間、両車の電位差により大きな突入電流が流れて火花が生じる。バッテリは充放電時に水素を発生させており、上部に滞留していることがある。水素は可燃範囲が広く着火エネルギーも小さいため、この火花で引火・爆発する危険がある。バッテリから離れた場所を最後にするのは、この一点を避けるためである。
【他の注意事項】
・両車の電圧を確認する。24V系と12V系を混同しない。
・ケーブルの容量が不足すると発熱する。始動に必要な電流に見合ったものを使う。
・ケーブルが回転部や高温部に触れないよう取り回す。
・両車の車体同士を接触させない。
【発電制御車での注意】多くの車両はバッテリのマイナス端子に電流センサを備え、充放電量を管理している。これを迂回して直接マイナス端子に接続すると、ECUが充放電を正しく認識できず制御不良を招く。車両指定のアース点(ボデーアース)を用いる。
【ハイブリッド車の場合】補機バッテリが上がった場合は、車種指定の救援端子から12Vを供給する。高電圧系への接続は絶対に行わない。押しがけもできない。
問109作業品質の管理手法である「5S」の要素として、含まれないものはどれか。
解説:【正解】2「節約」
【正解の根拠】5Sは整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の5つである。単なる片付けではなく、作業品質と安全、効率を支える管理手法として位置づけられる。
【それぞれの意味】
・整理:必要なものと不要なものを分け、不要なものを処分する。
・整頓:必要なものを、必要なときにすぐ取り出せるよう定位置に置く。
・清掃:ごみや汚れを取り除き、同時に設備の異常を発見する。
・清潔:整理・整頓・清掃の状態を維持する。
・躾:決めたことを守る習慣をつける。
【整備工場での効果】
・工具の探索時間の削減。定位置管理により、何がないかも一目で分かる。
・工具の置き忘れ防止。エンジンルームや車内への置き忘れは重大な事故につながる。
・部品の取り違え防止。取り外した部品を整理して置けば、戻す位置を誤らない。
・通路の確保による転倒・接触事故の防止。
・油汚れの除去による滑り防止。
・清掃の過程で設備の異常(油漏れ、亀裂、緩み)を発見できる。
【品質との関係】乱雑な環境では、確認の抜けや取り違えが起きやすい。5Sは「気をつける」を仕組みで支える取り組みである。
【躾が要になる】仕組みを作っても、守られなければ意味がない。決めたことを守る習慣と、それを支える職場の文化が最後の要素として置かれている。
【実務での着眼点】写真による定位置の明示、シャドーボードなど、視覚的に分かる工夫が定着を助ける。
問110リコールおよび改善対策に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1リコールの費用は使用者が負担する
- 2改善対策はリコールより保安基準への不適合の程度が重大なものをいう
- ✔リコールは、設計または製作の過程に原因があり、保安基準に適合しなくなるおそれがある場合に、製作者等が国土交通大臣に届け出て回収・修理する制度である
- 4リコール対象車であっても、車検には無関係である
- 5リコールの届出は販売店が行う
解説:【正解】3「リコールは、設計または製作の過程に原因があり、保安基準に適合しなくなるおそれがある場合に、製作者等が国土交通大臣に届け出て回収・修理する制度である」
【正解の根拠】リコールは道路運送車両法第63条の3に基づく制度で、設計または製作の過程に原因があり、保安基準に適合しない、または適合しなくなるおそれがある場合に、製作者等が国土交通大臣へ届け出て無償で改修する。費用は製作者等の負担である。
【3つの区分を整理する】
・リコール:保安基準への不適合、またはそのおそれがある場合。法に基づく届出制度。
・改善対策:保安基準不適合には至らないが、安全上または環境上、放置できない場合。
・サービスキャンペーン:商品性や品質に関するもの。上記2つに該当しないもの。
不具合の性質と重大性によって区分される。いずれも改修は無償で行われるのが通常である。
【整備事業者としての実務】入庫時に車台番号でリコール・改善対策の実施状況を確認する習慣が重要である。訴えのある症状がリコールの対象事象であれば無償で改修されるのに、それを知らずに有償修理を行えば顧客に不当な負担を強いることになる。該当すれば、実施可能な窓口を案内する。
【なぜ制度があるのか】同一の設計・製作に起因する不具合は、同じ型式の多数の車両に潜在している。個別の修理では対応しきれないため、製作者が能動的に対象車両を特定し、使用者へ通知して改修する仕組みが必要となる。届出により行政が把握し、実施状況を監督する。
【実務での着眼点】未実施のまま長期間経過している車両もある。案内は顧客の安全と信頼の双方に資する。
問111整備工場における「フェールセーフ」と「フールプルーフ」の考え方に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1両者は同じ概念であり、区別する必要はない
- 2フールプルーフは故障発生率を下げる設計である
- 3フェールセーフは誤操作を防止する設計である
- ✔フェールセーフは故障時に安全側へ移行する設計、フールプルーフは誤操作をしても危険が生じないようにする設計である
- 5いずれも自動車には適用されない概念である
解説:【正解】4「フェールセーフは故障時に安全側へ移行する設計、フールプルーフは誤操作をしても危険が生じないようにする設計である」
【正解の根拠】フェールセーフは、故障が生じても安全側に作動する設計である。フールプルーフは、誤った操作をしても事故に至らないようにする設計である。対象が異なる。前者は「故障」、後者は「人の誤り」に備える。
【フェールセーフの例】
・スプリングブレーキ:エア圧が失われるとばねの力で自動的に制動する。
・EPSのトルクセンサ異常時:アシストを停止する。誤ったアシストより、重いハンドルの方が安全である。
・高電圧系の絶縁監視:低下を検出すればシステムメインリレーを遮断する。
・ブレーキの二系統化:一方が失陥しても他方で制動できる。
・電子制御スロットルのセンサ冗長化:異常を検出すれば出力を制限する。
【フールプルーフの例】
・シフトロック:ブレーキを踏まなければPから動かせない。
・キーインターロック:キーを抜くにはPに入れる必要がある。
・コネクタの形状違い:誤った相手には挿さらない。
・給油口の形状:軽油とガソリンのノズル径が異なる。
・インタロック:サイドスタンドを出したままギヤを入れればエンジンが停止する。
【整備工場での応用】
・チェックリスト:確認の抜けを防ぐ(フールプルーフ)。
・工具の定位置管理:置き忘れを防ぐ。
・リフトのロック:確実にかかるまで下に入れない運用。
【共通する思想】人は誤り、機械は壊れる。それを前提に、それでも事故に至らない構造を作る。「気をつける」に頼らないという点で共通している。
【実務での着眼点】既存の安全装置を無効化する改造は、この思想を壊す行為である。
問112サービス業としての整備業における「不具合の再発」を防ぐ取り組みとして、最も適切でないものはどれか。
- 1修理後に同一条件で再現しないことを確認する
- 2真因が特定できるまで、測定に基づく切り分けを行う
- 3同種事例を社内で共有し、標準作業に反映する
- 4メーカーのサービス情報や技術公報を確認する
- ✔症状が消えた時点で原因追及を打ち切り、納車を優先する
解説:【正解】5「症状が消えた時点で原因追及を打ち切り、納車を優先する」
【正解の根拠】症状の消失と真因の除去は別である。特に間欠故障では、たまたま症状が出ていないだけの可能性があり、原因を特定せずに納車すれば再発は避けられない。「症状が消えた時点で原因追及を打ち切る」ことが最も避けるべき対応である。
【再発防止のループ】
①修理後に、発生条件を再現した状態で症状が出ないことを自ら確認する。顧客に確認を委ねない。
②真因が特定できるまで、測定に基づく切り分けを行う。部品交換で症状が消えても、なぜ消えたかを説明できなければ不十分である。
③同種事例を社内で共有し、標準作業やチェックリストに反映する。
④メーカーのサービス情報や技術公報を確認する。既知の不具合であれば短時間で確定できる。
この循環がPDCAそのものである。
【当てもの修理の弊害】疑わしい部品を順次交換する進め方は、費用と時間を浪費するだけでなく、真因が残るため再発を招く。さらに、どの交換が効いたのか分からず次回の判断材料にもならない。組織としての技術が蓄積されない点も損失である。
【記録の役割】「どの値がいくつだったから何と判断したか」を残せば、再発時に前回との差分を比較でき、原因の絞り込みが速くなる。担当者が替わっても引き継げる。
【3回目の入庫という場面】2回失敗しているなら診断の前提自体を疑う。担当者を替えて別の視点を入れる、外部の技術相談を活用するといった判断も、顧客の利益に照らして合理的である。
状況判断・応用全88問中 8問を掲載
問113「時速80km付近でハンドルに小刻みな振動が出るが、それ以外の速度では気にならない」という訴えがあった。最初に行う確認として最も適切なものはどれか。
- 1エンジンの圧縮圧力を測定する
- 2ブレーキパッドを新品に交換する
- ✔タイヤの偏摩耗・変形・ホイールバランス・ホイールの振れ、およびハブ取付面の状態を確認する
- 4アライメントを直ちに調整する
- 5燃料の銘柄を変更するよう案内する
解説:【正解】3「タイヤの偏摩耗・変形・ホイールバランス・ホイールの振れ、およびハブ取付面の状態を確認する」
【正解の根拠】特定の速度域だけで現れる振動は、回転体の不釣合いが車体やステアリング系の固有振動数と一致して共振している可能性が高い。回転体の励振周波数は速度に比例して変わるため、ある速度でだけ顕著になる。まずタイヤの偏摩耗・変形、ホイールバランス、ホイールの振れ、ハブ取付面の状態を確認する。
【なぜタイヤ・ホイール系から見るのか】不釣合いによる遠心力は回転速度の2乗に比例して増大するため、高速域で顕在化する。ホイールバランスの狂い、タイヤ内部のベルトのずれ、ホイールの変形、ハブ取付面の錆や異物による芯ずれが典型的な原因である。いずれも比較的容易に確認でき、頻度も高い。
【静バランスと動バランスの区別】静バランスの狂いは上下方向の振動(ホップ)、動バランスの狂いは回転軸に対する質量分布の偏りによる横方向の振れ(シミー)を生む。ステアリングに伝わる小刻みな振動は後者に対応することが多く、修正にはリムの内外2面へのウェイト配分が必要である。
【切り分けの進め方】前後輪を入れ替えて症状が変化するかを見れば、どちらの車軸側かを絞り込める。ブレーキを踏んだときだけ振動するならディスクの厚さ不同や振れ、加速時だけならドライブシャフトやエンジンマウント、常時ならタイヤ・ホイール系という整理も有効である。
【実務での着眼点】新品タイヤに交換した直後からの発生であれば、作業に起因する要因(ウェイトの脱落や貼付位置、ビードの上がり方、締付けの不均一、ハブ面の清掃不足)を優先して確認する。
問114「バッテリを交換したら、パワーウィンドウのオート機能が使えなくなった」という訴えがあった。最も適切な対応はどれか。
- 1パワーウィンドウモータを交換する
- 2スイッチを交換する
- 3バッテリを元に戻す
- ✔初期設定(学習)が消去された可能性を考え、車種指定の手順でオート機能の初期化を行う
- 5ヒューズをすべて交換する
解説:【正解】4「初期設定(学習)が消去された可能性を考え、車種指定の手順でオート機能の初期化を行う」
【正解の根拠】電源が遮断されると、パワーウィンドウの全開・全閉位置や挟み込み防止のしきい値といった学習値が消えることがある。多くの車種では、全閉位置でスイッチを一定時間引き続けるなどの簡単な手順で再学習できる。部品交換の前に、この初期化を疑うのが正しい順序である。
【なぜ学習が必要か】挟み込み防止機構は、モータの回転速度や電流の変化から異常な負荷を検出して反転させる。しかし窓の位置によって正常な負荷は変化し、また個体差やガラスラン(ゴム)の状態でも変わる。このためECUは全閉直前までの負荷の推移を学習し、位置ごとのしきい値を持っている。学習値が失われると誤検出を避けるためオート機能を停止する設計になっている。
【電源遮断で影響を受ける他の項目】ステアリング舵角センサの中立位置、アイドル学習、スロットル全閉位置、時計とオーディオの設定、パワースライドドアやサンルーフの位置、車種によってはATの変速学習など。バッテリ交換時にはこれらの再設定の要否を確認しておくと、後からの再入庫を防げる。
【メモリ保持の考え方】電源を切らずに交換するためのバックアップ電源を使う方法もあるが、車種によっては推奨されない場合もあるため取扱書に従う。発電制御車ではバッテリのマイナス端子に電流センサが付いており、これを迂回した接続はECUの誤認識を招く。
【実務での着眼点】「交換後にこうなった」という訴えは、作業に起因する可能性を優先して確認する。
問115ハイブリッド車で「登坂中に出力が低下し、メータに警告が表示された」という訴えがあった。考えられる要因として最も適切なものはどれか。
- 1エンジンオイルの銘柄が不適切である
- 2タイヤの空気圧が高すぎる
- 3ワイパブレードが劣化している
- 4エアコンフィルタが目詰まりしている
- ✔高電圧バッテリの温度上昇やSOC低下により、システムが出力を制限した可能性がある
解説:【正解】5「高電圧バッテリの温度上昇やSOC低下により、システムが出力を制限した可能性がある」
【正解の根拠】連続登坂ではモータアシストが続くためSOCが低下し、やがてエンジン出力のみとなる。またバッテリやインバータの温度が上昇すれば、保護のため出力が制限される。まずデータストリームでSOC、バッテリ温度、インバータ温度、冷却系の状態、DTCを確認する。
【なぜ登坂で顕在化するか】平坦路では加速と減速が繰り返され、回生でSOCが回復する機会がある。連続登坂では回生の機会がないまま放電が続くため、SOCが下限へ向かう。同時に大電流が流れ続けるため、バッテリとインバータの発熱も蓄積する。この2つが重なる条件が登坂である。
【確認すべき項目】
・SOC:下限付近まで低下していないか。
・バッテリ温度、インバータ温度:制限がかかる温度域に達していないか。
・冷却系:空冷式なら吸気口の閉塞やフィルタの目詰まり、水冷式なら冷却水量、電動ポンプの作動、エア噛み。
・DTC:出力制限に関する記録があるか。
・エンジン側:過給圧、燃圧、失火など、エンジン出力そのものの低下要因。
【正常な制御か不具合か】ある程度の出力制限は設計上の正常な保護動作である。しかし通常より早く、あるいは軽い負荷で制限がかかるなら、冷却性能の低下やバッテリ劣化(SOH低下)が背景にある。過去の記録と比較できると判断しやすい。
【顧客への説明】特性としての制限なのか、点検すべき不具合なのかを、データを示して区別して伝える。
問116「ディーゼル車で警告灯が点灯し、しばらく走ると消える。近距離の買い物にしか使っていない」という訴えへの対応として、最も適切なものはどれか。
- ✔DPFの再生が完了していない可能性を説明し、走行実態に合わせた使い方の助言と堆積状態の確認を行う
- 2直ちにDPFを交換する
- 3警告灯のバルブを外す
- 4エンジンオイルを増量する
- 5燃料フィルタを交換すれば必ず解決する
解説:【正解】1「DPFの再生が完了していない可能性を説明し、走行実態に合わせた使い方の助言と堆積状態の確認を行う」
【正解の根拠】短距離走行の繰り返しでは排気温度が上がらず、DPFの再生に必要な条件が成立しない。再生が中断されればやり直しとなり、堆積が進む。警告灯が点いてしばらく走ると消えるのは、走行中に再生が進んだためである。使用実態と再生の仕組みを説明し、必要な走行条件を助言する。
【なぜ再生できないのか】DPFの再生には、排気温度を600℃前後まで上げて一定時間保つ必要がある。短距離では、その温度に達する前に停止してしまう。「乗る回数」ではなく「連続して走る時間」が問題である。
【顧客への説明の要点】
・故障ではなく、使い方と車両の特性の組合せによるものであること。
・警告が出たら、可能な範囲で連続走行するか、手動再生を行うこと。
・放置すれば堆積が進み、走行不能や高額な修理に至ること。
・目安となる走行条件(車種の指定に従う)。
【併せて注意を促すこと】ポスト噴射された燃料の一部がオイルへ混入する。頻繁な再生では油面上昇と粘度低下が進むため、オイルレベルの確認と、距離ではなく状態に応じた早めの交換が必要になる。
【車両側の確認も行う】使用実態が主因と判断する前に、差圧センサ、排気温度センサ、ポスト噴射、EGR、インジェクタ、DOCの劣化といった要因を除外しておく。データで再生の履歴と頻度を確認する。
【次の選択への情報】走行パターンがディーゼル車に適していない可能性もある。将来の車両選択の参考として伝えることも、顧客の利益になる。
【実務での着眼点】断定せず、データと事実で説明する。
問117「制動時にキーというブレーキ鳴きがする。効きに不満はない」という訴えへの対応として、最も適切なものはどれか。
- 1鳴きは避けられないため対応不要と伝える
- ✔パッドの残量・面取り・シム・鳴き止め材、キャリパの摺動、ローターの状態を確認したうえで対処する
- 3パッドの摩擦材を削って薄くする
- 4ローターに潤滑剤を塗布する
- 5制動力が十分なので点検しない
解説:【正解】2「パッドの残量・面取り・シム・鳴き止め材、キャリパの摺動、ローターの状態を確認したうえで対処する」
【正解の根拠】ブレーキ鳴きはパッドとローターの微小な振動が共振して生じる。パッドの残量・面取り・シム・鳴き止め材、キャリパの摺動、ローターの状態を確認したうえで対処する。摩擦面への潤滑剤塗布は制動力を失わせるため厳禁である。
【鳴きが起きる仕組み】制動時、パッドとローターの間で微小なスティックスリップ(固着と滑りの繰り返し)が生じ、これが部品の固有振動数と一致すると可聴音になる。1kHzを超える高い音になるのはこのためである。つまり「摩擦の変動」と「共振」の2つが揃うと鳴く。
【対策の考え方】
・共振を避ける:シムを追加または交換して固有振動数をずらす。パッドの面取り(チャンファ)や溝(スリット)も同様の効果を持つ。
・摩擦の変動を抑える:パッドの当たりを均一にする、キャリパのスライドピンを整備して片当たりをなくす、ローター表面の異材質転写を除去する。
・制振材:パッド裏面への鳴き止め材の塗布。ただし摩擦面には決して塗らない。
【背景を見落とさない】鳴きを制振だけで片付けず、原因を確認する。残量不足でウェアインジケータが接触している、パッドが片減りしている、ローターに深い偏摩耗がある、キャリパが固着しているといった、整備を要する状態が隠れていることがある。
【顧客への説明】効きに問題がなくても、原因の確認は必要であることを伝える。摩擦材の材質による鳴きやすさもあり、完全にゼロにできない場合もあることも併せて説明する。
問118車検整備の際に、明らかに保安基準に適合しない改造が施されていることを発見した。最も適切な対応はどれか。
- 1顧客に伝えず、そのまま検査を受ける
- 2顧客の同意があればそのまま検査に通す
- ✔不適合の箇所と理由を説明し、基準に適合する状態への復元を提案する
- 4指摘せず整備のみ行う
- 5不適合部分を隠して検査を受ける
解説:【正解】3「不適合の箇所と理由を説明し、基準に適合する状態への復元を提案する」
【正解の根拠】不適合な状態のままでは検査に通らず、また整備事業者が不正改造を放置または助長すれば責任を問われる。事実と、どの基準に適合しないかを説明し、是正の必要性と方法、費用を示して顧客の判断を仰ぐ。
【説明の組み立て】
・どの部分が、どの基準に、どのように適合しないか。曖昧な「違法です」ではなく、具体的に示す。
・そのままでは検査に通らないこと。
・是正の方法(純正部品への復元、適合品への交換)と費用。
・放置した場合のリスク(整備命令、使用停止、罰則、事故時の責任)。
【なぜ顧客の判断を仰ぐのか】改造を元に戻すには費用がかかる。無断で戻せば費用をめぐる紛争になる。事実と選択肢を示し、判断は顧客に委ねる。ただし、是正しなければ検査は受けられないという事実は明確に伝える。
【断るべき場面】顧客が「そのまま通してほしい」と求めても応じてはならない。指定工場が虚偽の保安基準適合証を交付すれば、指定の取消しという事業の存続に関わる処分の対象となる。
【典型的な不適合】マフラの騒音と触媒の撤去、灯火の色と個数、タイヤのはみ出し、窓ガラスの透過率、番号標の被覆、車高。
【他店の施工であっても】誰が施工したかにかかわらず、現在の状態が不適合であることに変わりはない。他店を批判せず、事実を示す。
【記録に残す】説明した内容と顧客の判断を記録する。是正しないまま返却する場合も、説明した事実を残す。
【実務での着眼点】入庫時の早い段階で発見し、伝えることが顧客の負担を減らす。
問119「社外LEDバルブに交換してから、ウインカーの点滅が速くなった」という訴えへの説明として、最も適切なものはどれか。
- 1点滅速度は保安基準と無関係であるため問題ないと説明する
- 2リレーを取り外して点滅を止める
- 3バッテリを大容量に交換する
- ✔消費電流の低下により断線検出が働いた可能性を説明し、対応品への交換や抵抗の付加など適合する方法を提案する
- 5異常はないと説明する
解説:【正解】4「消費電流の低下により断線検出が働いた可能性を説明し、対応品への交換や抵抗の付加など適合する方法を提案する」
【正解の根拠】多くの車両は灯火回路の電流値や電圧降下から球切れを検出している。白熱球からLEDへ交換すると消費電流が大幅に減るため、システムが「球切れ」と誤判定し、点滅を速くして運転者に知らせる(ハイフラッシャ)。方向指示器は毎分60回以上120回以下という基準があるため、この状態は保安基準に適合しない。
【対処の方法と注意点】車種に適合するLED対応品を使う、正規の方法で抵抗を付加する、LED対応のフラッシャリレーへ交換する、といった手段がある。抵抗を付加する場合は減った分の電力を熱として捨てることになり、かなりの発熱を伴う。取付位置と固定方法を誤れば樹脂部品の溶損や火災につながるため、金属部への確実な固定と可燃物からの離隔が必要である。
【併せて確認すべき適合性】LED化では点滅速度だけでなく、光度、光色、視認角度のすべてが基準に適合していなければならない。灯体はもともとその光源の発光点を前提に設計されているため、発光点の位置が異なるバルブでは配光が崩れることがある。前照灯では特に顕著で、カットオフラインが出ない、光度が確保できないといった不適合が生じやすい。
【顧客への説明】「LEDにしたら明るくなる」という期待に対し、灯体との組み合わせで決まること、基準に適合しなければ車検に通らないことを、事実として伝える必要がある。装着を引き受ける以上は施工の責任が生じるため、適合が確認できない製品は理由を示して断る判断も含めて検討する。
問120後付けのドライブレコーダを取り付けた後、「まれにメータの警告灯が一瞬点灯する」という訴えがあった。着眼点として最も適切なものはどれか。
- 1エンジンの点火時期を調整する
- 2タイヤをローテーションする
- 3冷却水を交換する
- 4ドライブレコーダは車両電装と無関係と判断する
- ✔電源の取り出し箇所、配線の取り回し、アース点、および常時電源による暗電流の影響を確認する
解説:【正解】5「電源の取り出し箇所、配線の取り回し、アース点、および常時電源による暗電流の影響を確認する」
【正解の根拠】時間的な前後関係から、後付け装置の施工に起因する可能性を優先して確認する。電源の取り出し方、配線の取り回し、アースの取り方、通信線への影響を点検する。
【後付け装置が引き起こすもの】
・暗電流の増加:常時電源から取れば駐車中も消費する。バッテリ上がりの原因になる。
・ノイズ:配線を通信線や高電圧配線に沿わせれば、誘導ノイズが誤作動を招く。
・アースの取り方:センサアースと大電流アースを結合すれば、電位変動が信号に重畳し、無関係に見えるDTCを生む。
・電源の取り出し箇所:他の回路と共用すれば、その回路の電圧が変動する。
・配線の挟み込み、可動部との干渉:時間の経過とともに損傷する。
【切り分けの方法】最も確実なのは、いったん装置を取り外して症状が消えるかを見ることである。消えれば施工に起因すると確定できる。消えなければ他の要因を探す。
【顧客への説明】取り外して確認する必要があること、その間はドライブレコーダが使えないことを説明し、了解を得る。原因が施工にあれば、適切な方法で取り付け直す。
【正しい施工の考え方】
・電源は、車種で推奨される取り出し箇所から取る。ヒューズボックスからの分岐では、専用の分岐ヒューズを用いる。
・アースは、指定の車体アース点に確実に取る。
・配線は既存のハーネスに沿わせ、可動部と高温部を避けて固定する。
・通信線への割り込みは行わない。
【実務での着眼点】施工内容を記録に残せば、後の切り分けが容易になる。